大切なヒトを失った順平に、どう接して良いのかわからなくて、俺は目を逸らしていた。 その経験は幸せにも俺には無かった。 「名前くん、元気無いけど大丈夫?」 「あや…」 「僕、どっか行ってたほうが良いかな」 「いや、ここにいて」 そう言えば、あやは笑って席に座り直した。俺は、あやのそういうところが好きだ。 何も聞かないでいてくれるから安心する。 「ね、あやは…大切なヒトを失ったことがある?」 「大切なヒト?」 「すげー好きな人とか」 うーん、とあやは顎に指を当てる。あんまり静かに考えるものだから、悪いことを聞いてしまったのではないかと不安になった。 パッと目が合ってどうしようかと下を向こうとしたら、あやが目を細めて笑った。どういう意味だ? 「僕は、無いかな」 「そ、そっか」 なんだろう、なんか、これ以上深く聞いてはいけない気がする。今の俺は何とも複雑な表情をしているだろうに、あやは変わらず笑っている。 「きっと、名前くんがいなくなったらその気持ちがわかるのかもね」 一瞬、あやが目を伏せたのを俺は見逃さなかった。でもそれが何を意味しているのかやっぱりわからなかった。 俺、あやのこと全然知らない。 「…俺は、いなくなんないよ」 「うん、そう思う」 あやが、どんな意味でそれを言ってるのかわからない。 「名前くん、放課後暇?」 「え、うん」 「遊ぼうよ。カラオケ」 「……あやから誘うなんて珍しいな」 「駄目?たまには僕から、ね?」 「駄目なわけないだろ」 あやのこと、知りたいなって思った。知らなきゃってすごい思った。 順平には悪いけどこの時、俺はあやのことしか考えていなかった。 きっと俺も、あやがいなくなったら順平の気持ちがわかるのかもしれない。 → |