「僕は彼の部屋で0時になるまて待っていよう。どうするか決まったら来て欲しいんだ」

「綾時くん…」

「そうだ…伝えておかなきゃ。"僕を殺す"という事への抵抗感で選択を曲げる必要は無い。前にも言ったけど、僕はどのみち、消える存在だ。"死"への抵抗感は全く無い。変な同情心は無用だよ」

「……」



「じゃ…待ってるから」


 そう言って綾時は静かにこの場を去った。残された場所で沈黙が起こる。
 彼らが戻ってくるまでの間、それぞれが決意を固めてきた。それは揺るぎないものであったが、彼らには不安要素があった。苗字である。
 綾時と共に一度、姿を消してしまったためどう考えているのかわからない。見る限り何かが変わった様子もなさそうである。それに彼と綾時は特別な関係にあった。


「…みんな」


 有里が静かに立ち上がり、全員を見る。それに答えるように全員は頷いた。


「決まってるだろ…答えは」

「聞かれるまでもない」

「もちろん、決まってます」

「腹くくれてなきゃ、ここ来てないっスよ」

「私も大丈夫です」

「僕も、もう迷いはないです」

「ワンッ!」

「わたしも…自分で決めました」


 全てを聞いたあと、有里はちらりと苗字を見た。息を飲む音がいくつか聞こえた。


「…名前は」


 苗字は一度視線を有里から外し、深く息を吐いてから視線を戻した。


「俺は、あやを忘れたくない」

「…わかった」



「気持ちは同じだな」


「じゃあ…頼んだぞ、有里…。…いいな」




 頷いて、有里は階段を上がっていった。遠くなっていく足音に、不安を覚えた。


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