「名前くん、寒くない?」 「ちょっと寒い、けど平気」 「マフラー貸してあげる」 「大丈夫だって」 駅で二人は白い息を吐く。そこに人は彼らしか居なく、代わりに棺桶のオブジェが存在していた。 改札をくぐり、数歩進んで苗字は振り返り街を眺めた。 「まだ、離れたくない?」 「ずっと住んでたから、ちょっとだけ」 「……もうちょっとだけ、ここに居ようか」 ふふ、と笑って綾時は苗字にベンチに腰掛けるよう促す。寒いからとくっつきながら二人は腰掛けた。綾時のマフラーを二人で使いながら。 「名前くんは寮に入る前はどうしてたの?」 「じいちゃんばあちゃんと暮らしてた」 「…ご両親は」 「出稼ぎ」 それからたくさんのことを話した。家族構成、どうしてSEESに入ることになったのか、綾時が来る前の学校のこと、自分が綾時に何を感じたのか。 「あやが転校してきて初めて見たとき、心臓がぎゅってなって、ああコイツだって思った」 「それは、運命ってこと?」 「そうだね、そう言う。」 君もそういうこと言うんだねって綾時は笑う。馬鹿にしてるだろ、と苗字が膨れる。それに綾時は笑いながらも謝る。仲の良い微笑ましい光景だ。 「僕って全然、名前くんのこと知らなかったんだね」 「俺もあやのこと、全然知らない。これから色々知っていけるよ」 「ふふ、そうだね」 綾時は静かに立ち上がり、苗字に手を差し延べる。後ろにある不気味な月のおかげで、綾時の姿は綺麗に映えた。 「そろそろ行こうか、影時間が終わる」 その手を取ると綾時は優しく微笑む。苗字はその手に引かれ、この街を出た。 死神が誘う先は、どこなのだろうか。 いってきます 「……っ、名前!」 有里は辿り着くが、もう遅かった。 2010.10.18 |