「あ、連絡するんだった」 「何を?」 「桐条先輩に、あやが起きたって」 机に置いてあった携帯へと手を伸ばす。携帯を手に取るとメール画面を作成する。その一連の動作を綾時は愛おしそうな目で眺めていた。どうしようもなく愛しくて仕方ないのだ。 かちかちと文を打っていたかと思ったら、少しのところでやめてしまった。 「どうしたの?」 「……あや、逃げよう」 「え…」 「アイギス壊したし、何されるかわかんない。逃げよう?」 苗字は綾時の肩を掴んで言う。綾時は静かに首を横に振った。それを見て苗字は顔を歪ませた。 「僕には伝えなきゃならないことがあるんだ」 「でも…」 「名前くんがそう言ってくれただけで嬉しいから」 ふわっと微笑んで綾時は苗字を撫でる。苗字は納得のいかない表情をしていたが、次第に妥協したのか綾時の胸に顔を埋めた。 「ねえ、名前くん」 「ん?」 「この体制は…誘ってるとしか思えない…んだけど」 そう言われて確認すると、自分が綾時に馬乗りになっていた。それも情事後で全裸である。羞恥が顔に集まって熱くなる。そんな苗字の様子を見て綾時は笑った。 「みんなが帰ってくるの、いつ?」 「天田が、4時」 「じゃあまだまだだね」 そう言ってキスを落とす。顔を真っ赤にして苗字は頷いた。 「あやは、髪下ろしたら湊に似てる」 「ずっと彼の中に居たからかな」 「…なんで湊なんだろ」 苗字は綾時の前髪を後ろへ流す。いつもの綾時の髪型になった。苗字の手つきが優しくてそれを嬉しそうに綾時は微笑んで受け入れた。 頭を抱えるように苗字は綾時を抱きしめる。離すまいと意地を張っている子供のように。 「俺だったらよかったのに、あやが俺の中に居てくれればよかった」 「…僕が居るってことは、そんなに良いものではないよ。きっと、辛いことのほうが多い」 「でも、あやだ。それ以上幸せである理由は無いよ」 拍子抜かれた顔をして綾時は涙を流した。自分は人間ではない、シャドウとほぼ同類である。それを知りながら彼は変わらず自分を愛し、体温をくれるのだ。それも誰でもない、彼が。こんな幸せなことがあるだろうか。 「名前…く…、」 「あや、俺はあやから離れないから。あやも俺から離れないで」 愛をまっすぐに 「できるなら…僕も永遠に…」 2010.09.07 |