「探しました」



アイギスに見つからないように止まっている車のかげに隠れた。けれどそのせいでアイギスが誰を見つけたのかわからなかった。誰か見てからでもよかったかもしれない。
影時間は音が無い。全てのものが停止しているからだ。そんな中、俺の心臓はやかましかった。嫌に速く鳴っている。緊張しているからだろうか。いや、違う気がする。


「ここで、何をしているんですか?」


そこにいる人を俺は知っている気がする。ストレガじゃない。もしそうだったら俺はとっくの間に飛び出している。
苦しくなって心臓あたりをぎゅっと掴む。どんなに強大なシャドウに出会っても、こんな逃げ出したくなることはなかった。
アイギスの問いへの答えを、聞きたくない。



「気がついたら、自然とここに来ていたんだ」



――…ああ、やっぱり。
何でやっぱり、と思ったのか自分でもよくわからない。
俺が声を間違えるわけが無いんだ。あやの声を。


「大変なことが起きてる筈なのに、でもどういう訳か、心が落ち着くんだ」

「…忘れたの?」

「えっ?」
「影時間…普通なら踏み入れない筈の時間。でも、あなたは適応している…人間ではありえない程に」


二人の会話が遠くに聞こえる。今が影時間じゃなければ、たまたま散歩してたら出会っちゃったとか、まだ自分への言い訳を作ることができた。
でも今は紛れも無く影時間!止まっている車も、その中で象徴化して出現した棺桶もその証拠。


「私はアイギス。対シャドウ非常制圧兵装のラストナンバー。…シャドウを倒すために生まれてきた機械」

「倒す…ため…」

「そして…あなたの本当の名は"デス"…10年前、わたしが封印したシャドウ!」



後悔した。なんで俺はここにいるんだろう。
信じられるか、あやがシャドウだなんて。
信じられるか、あやが敵だなんて!!

二人が何かごちゃごちゃと話している。けれど俺はそんなの聞ける状態じゃなかった。
誰か来て。そして俺に"これは夢だ"と言ってくれ。
 完璧な放心状態。通信機の存在も忘れて俺は呆然としていた。二人の会話は更に深いところまで進む。俺はその場に腰を下ろした。立っていられなくなったからだ。早く、早く誰か来て。


「パラディオン!」


アイギスがペルソナを呼んだ。待って、ここでそれを呼ぶってことは、あやに向けたものだろう。待って待って!あやを傷つけないで!
咄嗟に飛び出す。巻き込まれる?知るか。

「え、名前くん…?」
「アイギスやめろ!」
「邪魔しないでください!」

二人の間に割って入るように飛び出したが、アイギスは攻撃の手を休めようとしない。くそ、こういうところが機械だ。
あやに引っ張られてあやの後ろへと投げ飛ばされる。予想以上の力に驚く。そしていくつかの光が、音が発生した。二人の戦闘によるものである。戦闘は一方的なもので、アイギスは膝をついた。ごめんなさい、と謝りながら。


「怪我は無い?」
「…無い……あや…」
「……なに?」
「今の、夢じゃないよな」


「……残念だけど」



伏せたあやの目を見て、泣きそうになったとき、犬の鳴き声が聞こえた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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