ようやく全ての授業が終わった。
掃除も終わり、さあ部活に行こうかと思ったら忘れ物をしたことに気づいた。
部活が終わってから取りに来てもいいんだが、きっと面倒くさく怠くなってしまうから今のうちに。

もう人はいない…かと思っていたら、誰かいた。
あの髪は、一目で分かる。苗字だ。
やっぱりボーッとしていて、携帯を開いては閉じ、机の上にある紙に何かを書く、を繰り返していた。
帰らないんだろうか。とりあえず声をかけておこう、そういえばまだ声をかけていなかった。




「苗字」

名前を呼ぶと、ビクッと肩を揺らして俺を見た。
俺がここにいることに気づかなかったのだろうか。とっさに机の上の紙を隠した。


「あー…俺、巣山。巣山尚治」
「…巣山」
「ああ、よろしくな」

そう言うと、苗字は笑って頷いた。
なるほど時間はかかるが何とか言葉は通じるらしい。まあきっと複雑なものになると駄目なんだろうけど。



「帰らないのか?」「……孝介、待つカラ」


泉を待つ?
もしかして泉の家の近くに住んでいるのだろうか。
一緒に帰るとか、そこらへんだろう。


「だったら、グランドで待てば?」
「……?」
「教室じゃなくてさ」
「………巣山、や、きゅうぶ?」
「ん?あ、うん」



そういえば言ってなかったっけ。
また、頑張って何か言おうとしているからゆっくり待ってみた。
しどろもどろ、
言葉が出てこないときってこんな感じになるよな、なんて思った。


「グランド、良い?」
「ああ、行こうぜ」


机の中にある忘れ物を取って、荷物を持ち上げると行こうというのが伝わったのか苗字も立ち上がった。

静かな廊下を二人で歩いていく。
特にこれと言った会話も無く、ただ歩く。
あっという間に校舎を出て、グランドへ向かう。
あまり見慣れていないのか、苗字はキョロキョロするばかりだ。




「……あのさ、」

声をかけると、苗字はこっちを向いた。
えっと、何を話そうとしたんだっけ。
早く言わないとグランド着いちまう。
苗字は俺を見て、ハテナマークを出しながら首を傾げている。
とりあえず何か言わないと…、





「色々大変だと思うけど、無理すんなよ」


何かあったら頼ってくれれば良いから、

そう言って思わず、頭の上に手をのせた。
その手をどうしていいのか分からず、とりあえず撫でてみた。うわ、俺何やってんだろう。

遠くで俺を呼ぶ声がした。誰かが気づいたらしい。
苗字の頭の上にのせた手をよけて、手を振った。





「じゃあ、ここにいてくれて構わないから」



ベンチに荷物を置いて言うと、苗字は頷いた。
鞄の中から帽子を出して被ると、俺もグランドへ出ようと一歩踏み出した。







「す、巣山!」


ベンチの方から、名前を呼ばれた。
それは今日1番大きく聞こえた苗字の声だった。
振り返ると、苗字は言葉に悩んでから笑ってこう言った。





「サンキュ!」



一瞬びっくりして、それから手を振り返した。
なんだ、全然良いヤツじゃん。



触れなくちゃ伝わらないこと



(巣山、あれ名前?)
(ああ、お前待ってるって言ってたから連れてきた)
(サンキュー)





2009.06.10
title by 確かに恋だった

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