噛み合わない歯車
フーゴは濃いブラックコーヒーが好きだ。年齢に似合わず何もかも大人な趣味の彼は思考回路も年を喰っている。まあ自分よりも年上に囲まれた環境にいたからなのだろうけど。
「フーゴ苦い」
砂を飲み込む思いでフーゴと同じブラックコーヒーを嚥下すると自業自得ですよと一瞥もくれずに言う。
フーゴはたいがい俺を邪険に扱う。ナランチャみたいにいっそ喧嘩出来れば良いのだがそれさえも億劫だと俺には関わろうともしない。愛の反対は無関心だとかの有名な偉人は言ったが正にそれだ。
「フーゴは俺が嫌い?」
「そう訊いてくるあなたが嫌いです」
少なくとも嫌いという感情を持ってくれたことに皮肉にも喜ぶ。
ああ、ナランチャに、ブチャラティになりたい。フーゴの生活の一端の歯車になりたい。
堂々巡りに溺れていると不意に肩を叩かれた。任務から帰ってきたジョルノが小さな包みを持って立っていた。
「ジョルノ?」
「あなたが言っていた通りの角の駄菓子屋のチョコですよ。要りませんか?」
確かにそれは俺が前に食べたい食べたいと大騒ぎしていたものだ。断る理由などどこにもないのでありがたく受け取る。
ビリビリと包装を破り一個を口に放るとじわりと甘いチョコが広がった。
「うまっ!ありがとうジョルノ」
「いえ、たまたま思い出したものですから」
ニコニコと笑うジョルノに俺も微笑み返す。ジョルノは優しい。ジョルノがパッショーネに入るちょっと前に俺が入った。初めての後輩に心躍らせジョルノに構い倒したため、ジョルノも俺を慕ってくれるようになった。出来た後輩である。
「このお礼に今からカッフェに行かないか?奢るよ」
「良いんですか?では遠慮なく」
仕事が出来る上に甘え上手とはジョルノは将来出世するだろう。
ジョルノを連れ部屋を出ようとしたとき、突然フーゴがバンッと力強くテーブルにカップを置いた。濃い色のコーヒーが当たりに散らばる。
「フ、フーゴ?」
「いってらっしゃい。帰りは遅くならないように」
ぷいっと顔を逸らしまた読んでいた本に戻る。一体どうしたと言うのか。隣を見るとクスクスとジョルノが笑っていた。
「何が可笑しいの?」
「ふふっ…いえ、何でもありませんよ。さあ行きましょう」
どんどん進むジョルノが小さくあなたも罪な人だと呟いたのを聞き逃さなかった。
俺が知らないだけでとっくにフーゴの日常の歯車になっていただなんて今の俺には知る由もなかった。