砂の星


注意!主人公の独白っぽい/死ネタ


"砂漠の星空は綺麗です"

たった一言、それだけ書かれた手紙が届いたのは典明が居なくなって暫くのこと。

家族は勿論普段大人しかった典明が居なくなったということで大騒ぎになった俺の周りは典明の大丈夫だから探さないでくれという内容の手紙に事態は鎮静化しつつあった。
有名な財団さんから息子さんをお預かりしておりますなんて説明されたらそら頷くしかない。典明のご両親は勿論納得いってないようだったが。

俺と典明は幼なじみという関係だ。引きこもりな典明と一緒にいつもゲームをしていた。典明はたまに情緒不安定になると周りに人を寄せ付けなくなること以外、いたって普通のインドアな子供だったように思う。
情緒不安定になると『化け物が、化け物が』と譫言のように呟く。俺はそんな典明をただ黙って見ているしかなかった。



その手紙を見て、俺はその字のひとつひとつから典明の『楽しくて堪らない』という感情を受け取った。その財団さんの話によると、どうやら同年代の奴も一緒に行動しているらしかった。

俺以外にも友人が出来たんだ、と素直に喜べない理由は分かっていた。
こんなに楽しそうな文を書くんだ。きっとその友人と仲良くして、俺なんて忘れてその友人と星空を見ているのだろう。

なんと女々しいと思うが、俺は典明を恋愛対象として見ていたんだ。仕方ないだろう。と一人ごちる。

だからこそ、この目の前の夢みたいな現状に憤りを感じずにはいられなかった。




「典明っ、典明!!」

ボロボロと涙を流しながら動かなくなった息子を抱く典明のご両親。
典明はその後、一通も俺たちに手紙を送ることなく、次は自分の亡骸を俺たちに送って来やがった。

棺を挟んで向こう側に居るのがどうやら典明と一緒に旅をしていた奴ららしい。

俺はつかつかと新品のローファーを鳴らしながらひとりの巨体な学ランの奴に歩み寄った。


「お前が典明と一緒に居た奴?」
「…そうだ」
「俺は苗字名前。典明の幼なじみ」
「…そうか」


と奴が答えるや否や俺は力いっぱいそいつを殴りつけた。バキッと嫌な音がしたにも関わらずそいつはその場から動かない。ただ黙って緑色の瞳に俺を写す。周りは静まり返って俺たちを見ていた。


「…えせよ。典明を返せよ!!」
「…」
「典明をっ…典明を返せ!」


だんだん抜けてく力を精一杯そいつにぶつける。分かってはいた。そいつは典明を守ろうとしたんだって。典明の仇を討ってくれたんだって。でも行き場の無い怒りは本来お礼を言うべきそいつに向かった。それは俺の嫉妬を多分に含むからだった。

そいつはただ黙って俺の弱々しい拳を受けていた。俺から目を反らさずにただ黙って。

「…すまなかった」
「…ふっ…っ…あぁあ…なんで帰ってこないんだよぉ…典明ぃ……!!」

止まらない涙を流しながら崩れた俺にそいつは俺を支えもせず黙っていた。その意図は汲んでいた。確かに、今お前に支えられたらまたぶん殴っちまうだろうから。

「…花京院がお前に、だそうだ」

そいつは俺に砂で黄ばんだ手紙を握らせると踵を返し去っていった。俺はしばらくその背中を見つめていた。ゆらゆらと揺れる視界に、一瞬だけそいつの背中に渋い緑色と華やかな桃色を見た気がした。

くしゃくしゃになった手紙をゆっくり開封した。そこには小さい便箋のど真ん中に一言しか書いていなかった。


"会いたい"


一言。そこには望んだ愛の言葉でも何でも無かったけど、一番欲しかった言葉だった。


「っ…あぁ…のり、あきっ」


パタパタと手紙にシミを作る。涙が溢れて止まらなかった。

砂漠の星はどんなだった。お前の新しい友人を紹介してくれよ。手紙はもっときちんと書けよ。会いたいよ。

どんな言葉ももう届かない。

さぁっとどこから入り込んできたのか吹いた風に手紙についていた砂がふわりと待って電球にキラキラと反射した。

薄暗くて寒い部屋にキラキラと光ったそれはまさに星だった。


後ろから名前を呼ばれた。
振り返ると誰も俺を見ては居なかったがただ一人だけ。

自分の両親に抱かれた典明がこっちを見ていた。


"会いたかった。一緒に砂漠の星を見たかった"


繋がった言葉に俺は笑顔で頷いた。




**

長い主人公くんの独白
   
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