It's a miracle!
財前は俺のことが嫌いだ。俺の声が耳障りだと言う。確かに白石たちみたいに通った声をしてるわけではない。でも耳障りだと言われるほどではないと思うのだが。どう思う、ユウジ。
「朝からぐちぐちうっさいわ。話しかけんなや」
そう言ってぶつぶつ良いながらイヤホンをしてしまう俺のクラスメート兼部活メイト。まあ俺の実力は遥かにユウジには及ばないのだが。
「あー…俺も白石みたいにあんなエロい声だしてみたいわ。女子に話しかけるだけで腰砕かれそうやん」
謙也の従兄弟の伊達眼鏡くんもエロい。あー羨ましい。財前に好かれる声が欲しい。
「ほんまもの好きやんな」
あーあと突っ伏した俺の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜるユウジは男前だ。かっこいいなぁ。財前に好かれるのも分かる。
「噂をすれば、や」
ユウジが目線を辿ると財前が居た。いつものように気だるそうだけどそこがまたセクシーだ。
「ユウジ先輩、これこないだ言ってたCDっすわ」
「おー、おーきに」
きっと今度やる漫才ライブの曲だろう。財前が数枚のCDを差し出した。良いなぁ良いなぁ、財前のものを受け取れるなんて、ユウジ恨めしい。
「ユウジずるい」
素直に口に出せばお前はきしょいと返された。ユウジのくせに。オクラのくせに。
ゆるりと目線をあげると財前がぎゅっと眉を寄せてこちらを睨んでいた。そんなに嫌いか。
「なーユウジ、俺の声変?」
「は?」
ユウジの耳に口を寄せあーと声を出す。別に、そんなと言ってくれたユウジを信じたい。しかし尚も眉を寄せたままの財前に俺は怒りの方が増してきた。何がいけないんだよ。
「財前、何か俺に言いたいことがあるんだったら言えよ」
「…何も」
「じゃあそんな顔すんな」
不機嫌を隠さず言うと財前は眉尻をぎゅっと下げなんだか悲しそうな顔になった。珍しい財前の表情に俺もユウジも驚いた。
「べ、別に怒ってるわけやないて、何か言いたいことがあるんかなぁって」
「じゃあ一つだけ」
「あんのかい、ってか何や。何でも言うてみい」
すると財前は俺の両頬をぎゅっと摘んできた。もごもごともがいていると、俺の少し下にある財前の端正な顔が近づいて目前で止まった。
「ざ、ざいぜ」
「俺の前で、その声で他の人の名前呼ばんで下さい」
チャイムが鳴り、では、と財前が去ってしまった後も俺は固まったままだった。
「…ミラクルや」
ユウジの声が頭に響いた。確かにミラクルだ。