チェインオブラバー
※財前ひどい
精神が擦り切れてボロボロになってゆくのを感じながらも地面に臥さないよう必死で歯食いしばって堪える。俺は怒りが頂点に達すると涙がボロボロ流れる。だから喉につっかえて言いたいことが言えず口喧嘩で負けるという経験は何度もしてきた。だからこそ今だけは、今だけは耐えねばならない。きちんと目の前の男にこの怒りをぶつけなければならないのだ。
「…えぇ加減にせぇよ」
「何がっすか」
「浮気や。何遍言うたら分かんねん」
「はあ、すんません」
「もう疲れた。別れよ」
「お好きにどうぞ」
この会話は今が初めてではない。寧ろ幾度となく繰り返され、そのたびに別れたくない俺が折れるのだ。財前は知っている。俺が心底財前に惚れていて、別れる別れると口には出して居ても本心ではないことを。だからこうやって浮気を続け俺が精神を擦り切らすとこを見て楽しんでいる。財前は根から俺が嫌いなんだと思う。
「嘘や、嘘。別れんとって」
「はあ」
「好きや、財前」
「俺もっすわ」
どの口が言うか。今日こそは本気何だぞってこいつに示さなきゃ。俺は乾いた唇をベロリと舐めると思い切って口を開いた。
「財前、…やっぱ別れよ」
「やからお好きにどうぞ」
何度やっても答えは変わらない。平気で好きだと言うくせに別れることに軽々しく了承する。これもまた俺の反応をみて楽しんでいるのだろう。いや、もう良い。もう良いんだ。こいつとは今後一切プライベートでは関わらない。
他の部員が帰った後の二人だけの空間から逃れようとラケバを背負いこみ部室のドアを開けた。すでにあたりは暗くうっすら一番星が見え隠れする。
「ほな」
そう言って財前の目の前から去ろうとしたとき、突然後ろからドンっと鈍い音を放ちながら俺は突き飛ばされた。強かに顔面を強打するといきなり地面に頭を押さえつけられた。
「いっ、たぁ…!!なにすんねん!!」
「別れるんはお好きどうぞ。その代わり恋人という肩書きがなくなった俺は謙也さんに優しくする理由を無くしました」
「は?」
「こん時を待ってました」
ベロリと頬を舐められ思わず身震いをする。
「このまま犯します」
抵抗も許さない財前の行為はただただ苦痛でしかなかった。最中の財前の話によると恋人になって俺に無闇に乱暴出来なくなり鬱憤が貯まっていたそうだ。だから別れるよう仕向けた。
意識を飛ばす前の"愛してる"は果たしてどちらの呟きだったのか。