愛しい君に


坊ちゃんは私にとって守るべき存在であり、また敬愛"すべき"御方だった。

そしてまた、坊ちゃんにとって私は無感情で無表情で冷たいだけの、刀だった。

そう、私は彼を敬愛"すべき"だったのだ。
もうすぐ二度目の学級裁判が行われる。皆が一様に捜査している中、私は希望と共に覚悟と、ほんの少しの諦めを感じていた。
小泉真昼を『殺意』をもって『殺した』のは坊ちゃんだ。私はいわば凶器のバットのようなもの。私にしか出来ない犯行だが犯人は坊ちゃんだ。そう、しなければならない。そうしたなら坊ちゃんはあの家へ戻れる。最愛の妹君の安否を確認できるだろう。

そして覚悟。もし、学級裁判が思うようにいかなかったとしても、きっとあの日向創ならば必ずや真実にまでたどり着けるだろう。そしてどんな結果であれ坊ちゃんは絶対に死ぬことはないが私は確実に死んでしまう。今更死に対してなんら恐怖はないが、坊ちゃんのこれからを思うと身構えてしまう。

そしてほんの少しの、眠る私の心底の淡い淡い恋心への諦め。

私は全てを受け入れ自らを修羅に堕とし、坊ちゃんの懐刀となる。

辺古山ペコなんて棄ててしまえ。

そうしたら、こんな哀しくなることはないのに。欲なんて生まれないのに。恋心なんて、

*


「おはよう、待ちくたびれたぜペコ」

泣きながら私の手を握る坊ちゃんは暖かかった。

「ぼっちゃ…」

涙を拭いたいのに手がうまく動かない。
嗚呼、泣かないで坊ちゃん。私なんかの為に、
ポタポタと坊ちゃんの涙が私ね手の甲に降り注ぐ。まるで甘茶みたいにふわりと香る甘い、甘い坊ちゃんの涙。

「坊ちゃん、…私のっ」

「ペコ、好きだ。大っ…好きなんだ…」

トクンと波打つ私の心臓はあり得ないくらいに血を身体に送り込んでいる。

「モノなんかじゃなくて、俺の隣に居てくれよ。無理に笑わなくても良いから、ペコが笑わない分だけ俺が笑ってやるから」

坊ちゃんの懸命な言葉に、私の眠っていた恋心が息を吹き返す。
私は彼の隣に居ることを赦されたのか。

否、元から自分に鎖をかけて閉じこもっていたのは私だけかもしれない。
坊ちゃんはこんなにも、私を見ていてくれたのに。

そっと坊ちゃんの手を握るとばっと跳ね上がるように私の顔を見る坊ちゃん。

坊ちゃん、私は

「…私も…大好きですよ…坊ちゃん」


未来はあなたと、あなたの隣に在りたい



*あとがき*
2章クズペコが愛おしく
   
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