手に届く


鳴り響く機械音、薄い黄緑の膜を張ったような硝子越しに見える巨大な装置。
ここがどこなのか。理解するのにいくら時間を要しただろうか。

(未来、機関?)

薄ぼんやりと覚醒していく意識の中、状況を把握すると同時にあることに気づく。

それは今、自分がこうして思案し、感じていることが奇跡だと言える事実にだ。

(自分の名前は、…日向…創)

言える、言える、覚えてる。
まだはっきりとは思い出せないけどきっとあのコロシアイ修学旅行のことも。


そして何より、


(あいつのことを、)

力の入らない手を握りしめ、堪えきれなかった涙が零れる。

自分が今こうして泣けることも奇跡であり、そして彼女が居た証なのだと改めて思う。

彼女が起こしてくれた二度目の奇跡。

一回目は自我の芽生え。

二回目は日向創の人格を取り戻したこと。

彼女はきっと笑っているだろう。
『やればなんとかなる』

そうやって。





***

身体の硬直が徐々にほぐれ、日向たち生き残り組が現実の身体の成長に慣れ始めてきた頃、眠っている狛枝のあの絶望の赤い爪の女の手を切ろうと言ったのは苗木だった。
やはり腐ったままのものを長々と傷口に押し付けるのは良くない。

狛枝の腕の手術は滞りなく終わり、彼の腕は肘下から途切れたように無くなった。

目覚めたとき、狛枝はなんて言うだろう。
考えてみたが途中で飽きてしまった。



案の定、一番に起きたのは狛枝だった。ただでさえほぼ脳死状態で意識が戻るのは奇跡であるのにも関わらず彼は変哲もなく普通に起きた。どれだけラッキーマンだと思ったが、彼はそれだけ代償を払ったということだ。おそらく腕なのであろうが、彼にとって自分の意識と腕が同等なのかと思うと哀しくなった。


「おはよう日向クン」


絶望仕切った顔で挨拶されても不快なだけだ。狛枝も自分とは違って上書きされてない。生き残り組のみんなはやはり奇跡と言うべきなのか徐々にコロシアイ修学旅行の記憶を取り戻し、絶望から更生して行っている。

「狛枝、歩けるか?朝飯だぞ」

介護レベルで介助が必要な狛枝は一向に朝飯に手を着けようとしない。ただでさえやせ細っている身体はさらに骨が浮き上がる。

「狛枝、食わないと、」

急かすように口元にスプーンを運ぶが口は開かない。いい加減じれるがそれは逆効果だと自分を律する。

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