幸とはなんぞや


「ボクはきっと君との子は一生つくれないんだろう」

そう言って涙も流さずただただ海を眺める狛枝に俺はなんと言って良いか分からなかった。
俺の腹の中には子宮があってもう初経も来ているから子供は出来る身体にはなっている。でも狛枝は駄目なのだ。狛枝のアンラッキーとラッキーにどう転ぶか分からない。
しかし狛枝が言っている言葉には誤りがある。狛枝は"つくれないん"ではなく"つくらない"んだろう。
狛枝はもはや麻痺していると言っても良い。自分の幸福の為に何かを失う悲しみに。でも"子"は違う。"子"を失うことは痛みだからだ。狛枝は痛みには耐えられない。

「狛枝、俺はお前との子供が欲しいよ」
「そんなこと言ったってつくれないんだから仕方ないよ。現にキミは妊娠してないじゃないか」

確かに、俺の中に注ぎ込まれた狛枝の種は子を宿していない。しかしそれは狛枝のラッキーが働いてなのではないか。子をつくらないようにしているのではないか。

「ボクはね、日向さんを愛してるんだよ」「うん」
「でも愛だけで"子"はできないんだ」
「…うん」
「欲しいよっ…ボクだってキミとの赤ちゃんが欲しいよ…でも怖いんだ。家族が出来たらまたきっとボクの幸福の材料にされちゃう」
「じゃあその前に俺がお前を殺してやる」
俺の言葉にはたと動きが止まる。
大丈夫、俺と子どもに被害が及びそうになったら迷わずお前を殺してやる。それで俺も死ぬ。絶対に、子どもを守るから。子どもさえ生きていればそれは俺たちの幸福だろう?

「…ふふ」
「?どうした」
「日向さんはやっぱり強いや。適わないよ」
「お前が弱すぎるんだ」
「ふ…あはは、そうだね。ボクは弱い」
狛枝がそっと俺の右手を握る。柔いその力に俺は満たされる。いつだって狛枝は俺を壊さないようまるで花のようにふわりふわりと扱うのだ。

「できちゃった結婚になるのかなぁ」
「じゃあ三人で結婚だな」

そうやっていつまでも笑っていた。
いつまでも、いつまでも。

***

子どもが出来たのは全員が目覚めて1ヶ月後だった。みんなに報告すると内なる絶望と戦うみんなの顔に希望が差し込んだ。そして小さな結婚式をした。狛枝は左手を失っていたが右手でしっかりエスコートしてくれた。

「永遠の愛を誓いますか?」

ソニアの言葉に俺たちは頷く。

「おめでとう日向さん、狛枝くん」

パソコンの中の七海やみんなからの言葉。俺たちは幸せの中にいた。
   
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