温もり
小説(ゼロ)版ネタバレあり
俺たちは暫くして島を出た。皆起きて暫くジャバウォック島に療養していたが、やはり外が気になるし、俺たちがしてきたことをきちんと受け止めなければならない。皆の意見が一致し、苗木たちの許可も得て船に乗り込んだ。
到着までに暫くかかるので来たときのように部屋に二人ずつ入ろうとなったのだが、狛枝が同室になると言って聞かなかった。俺も別に約束していた相手も居なかったから了承しようとしたのだがそれはいきなり田中に手を掴まれ部屋に連れ込まれたことで遮られた。
「た、田中?」
「同室などそんな下界の俗と一緒に居ることなどまさに地獄…絶望の極みだ」
もごもごまたなんだか分からないことを言っているがつまりは"特異点"である俺と一緒の方が気が楽だと言いたいのだろう。
「俺はお前と一緒で良いぜ、田中」
「そこまで言うなら…」
とマフラーを口まで押し上げ真っ赤になる田中は素直に可愛いとお思う。しかしその中になんだか暗い重苦しい空気を感じた。田中からだと思うがさっきの照れ顔から一変深刻そうな顔になっている。
「どうした田中」
「何がだ?」
「なんか深刻そうな顔してるから」
ポカンとした田中はゆっくりとそのまま目線を床に移しまた深刻そうな顔をしてうなだれた。
「…少しだけ、」
「おう」
「……少しだけ、怖い」
怖い、そう呟いた田中の手は小刻みに震えていた。そりゃそうだ。俺たちがぶっ潰してしまった世界、俺たちがばらまいた絶望の所為で何人もの命が奪われた。そんな跡地を今から踏み入ろうだなんて。恐いにも程がある。
「俺も怖いよ」
ぎゅっと目を瞑るとカムクライズルだった頃の風景。目の前にはかつての生徒会の人達の死体。怖い怖い怖い。怖過ぎて涙がでる。
「っ、」
弾かれたように顔を上げぐっと涙をこらえた田中はそのまま俺を抱き締めた。じんわりと胸や腕から伝わる温度に安心して涙腺が緩む。
「…勝手に、一人で泣くことは許さん」
「田中もっ、…な」
強まる腕の力に涙声で返す。
それから二人で抱き締め合いながらぐずぐず泣いていつの間にか眠ってしまった。
夕飯を呼びに来た狛枝に発見されネチネチ言われたのはついさっきのこと。
広場に向かう途中目を腫らした俺たちは向かい合ってくしゃりと笑った。やっぱり怖いのは変わらないが、自然と取り合い繋いだ手の温もりこそが俺にとって怖さに打ち勝つ最高の術だと感じた。