第一撃
虎太朗はお金が欲しい。明日を生きるために、だ。
そのために、いつもギルドでコツコツ稼いでいる。
が、既に所持金は尽きそうだった。で、また適当な依頼をこなそうとギルドに足を運んだわけだ。
目の前ではかつて、幼馴染みだった変人男が「チョー美人!」と言っていたギルドの長の娘だという受付嬢が手続きをしている。
まぁ確かに笑顔のステキな美人だ、残念ながら虎太朗の好みではないが。
と、虎太朗が分析していると控えですと受付嬢が契約書の控えを破ってよこし、
「期限は一週間です。それを過ぎると契約は破棄になります。また、契約書の控えをお持ち頂けないと報償金はお支払できませんので、ご注意ください」
という、もう聞き飽きたマニュアル通りの台詞を吐いて、出発を促した。
ギルドを出ると、悪寒がした。
こういうとき絶対にあの囚人服の変人男が近くにいる。
「こーぉちゃんっ!」
やっぱり来た!そしてこういう時の対処法も虎太朗は心得てる。
後ろから抱きついてくる変人をかわし、逆につかんで固定して、
「ジャーマンスープレックスぅぅぅぅぅぁぁああああっッッ!!」
「ごぶあぼばッ!?」
変人は頭から地面にめりこんだ。
なかなかいい感じにキマった。
しかし変人はMのため、ダメージには無駄に強い。ウザい。
「はぁっ……さすがは虎太朗ッ!すっごくキモチイイよ……!」
「ウゼぇ。すっげぇ気持ち悪いから、お前」
「えー、ひっどぉい!オレの名前は要だよ!ウゼぇじゃないよ!!」
変人男こと要は、めりこんだ頭を地面から抜いてヘラヘラと笑った。さすがはMだ。
「あ、そーいえば虎太朗!さっきの、フローラちゃんだったね。いいなー」
「フローラチャンダッタネ?」
「フローラちゃん、だよ。受付の子!見とれてたクセにぃ!!」
「な………ッ」
見とれてないッ、と噛みつくように言うと要は知ってるーとヘラヘラ笑った。ウザい。
「あの子、こーちゃんの好みじゃないもんね
それにどっちかとゆーと見とれる、よりもガンつけてる、の方がずぅっと近かったしー」
「ウゼぇ。てかさ、いつからいたんだよお前は」
「こーちゃんが依頼受けてるときー!外から見えたから、つい☆」
つい☆と同じくらいのウザさで、ごめんねっと笑う。ウザい
「そーいえば、魔物討伐だっけ、依頼。
たしか、ネクロフィリア?」
「ほとんど最初から聞いてたのかよ!」
「えー、うん。それよりー」
ムカツク上に虎太朗の不満の叫びは完無視ときたもんだ。ウザい。
「それさ、最近よく出るねぇ。主食は骨だって?ごはん求めてお墓に出るらしいね」
「……ああ。身内の骨パクられたら、たまったもんじゃねーんだろうし」
「でもさ、迷惑だけどネクロフィリア討伐ってけっこー楽しいよね。
オレたちが頑張ってるのに骨にしかキョーミねぇぜって感じが、放置プレイっぽくてさあ。こう、ゾクゾクくるんだよね!生殺しも嫌いじゃないもん、オレ」
嬉々とした笑顔で話されても、要の言葉の半分以上は虎太朗の理解できる範囲を越える。
「……あー、お前は何が言いたい」
「えっとね、だからさ、オレも虎太朗についていくよ!」
「ふーん。そりゃよかったな」
変人の相手は疲れるものだと虎太朗は知っていた。幼い頃にイヤというほど思い知った。
だから流した、自分で訊いたのに、だ。きっま、バチが当たったんだ。
無視したから?
キモいと思ったから?
適当に流したあとに、疲れた虎太朗の頭にやっと要の言葉は届いて。
最悪の事態を理解する。
コイツガツイテクル?
イッシュウカン、ズットイッショ?
「……は?」
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