僕を見ないで欲しい



 最近よく見る夢がある。
 目を覚ますと朧げであまり鮮明には思い出せないが、その夢のなかには二人現れる。自分といつもそばにいるコンラート・ウェラーという男との夢。夢のシュチュエーションは様々でふたりで遠出をしたり、キャッチャボールしたりと現実とさほど変わらないのだが、ただ一つリアルと異なることが存在する。
『ユーリ、愛しています』
 と、コンラッドが自分に対して恋愛感情を持ち合わせていること。
 愛を甘く耳元で囁かれ、頤を掬われたかと思えば長くふしばった彼の指が自分の下唇を指の腹でなぞる。艶やかな瞳に囚われて、動揺して息さえもままならない。それがどういう意味なのか、鈍い自分でもわかる。
『好きです』
 わかりたく、ないのに。
 何度も彼は、囁く。繰り返し、何度も。混乱する、ほどに。
 茶色の瞳のなかに揺らめく銀色に輝く星が、どこか冷たくて安心する。
 ああ、彼も自分と一緒なんだと。
 夢のなかの自分の胸はうるさいほど高鳴るのに、現実にいる自分と同様に頭のすみは異常なほど冷めている。
 だから、ただ黙る。
『ユーリ、愛しています』
 なので、近づく顔を逸らさない。近づく口唇。
 目を閉じる。
 けれども、そのさきはいつもこない。
 夢は、いつもここで途切れるのだ。


「おはようございます。陛下」
「……陛下っていうな、名づけ親」
 有利は重い瞼を無理やり持ち上げて、大きく欠伸をする。窓辺のカーテンの隙間から差し込む太陽の光がいつもどおりの一日のはじまりを告げる。
「今日もロードワーク日和だなあ!」
「そうですね」
 そして、実感する。これが現実なのだと。
 ベッドサイドで、自分の支度を準備する彼に視線を移す。視線に気がついたコンラッドが笑む。夢のような妖艶なものではなく、ただ優しく。
「どうかしましたか?」
「ううん、なんでもない」
 小さく心音上げる鼓動に気がつかれないように左胸を押さえる。コンラッドは嫌に悟いから。
 いつの間にか芽吹いたこの感情を、枯らさなければならないのに日に日に大きくなる気持ちをどうずれば抑えられるのか。
 コンラッドが有利の運動着を準備するためにクローゼットを向かい、背を向け、有利は自傷的な笑みを太陽へ向けた。
 自分は、嘘をつくことが苦手だ。
 ああ、彼に見つかるまえに早くこの感情よ、死んでしまえ。
 そして願う。こんな自分を見ないで、と。


夢でみた世界は叶わないともう何百回も理解したから、あんな悲しい夢は見たくないんだ。
thank you:怪奇
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