あっはっは!
 聞いてくれますか、聞いてくれるよね! ちょおっと僕の笑える話。あっはっは! だめだ、だめだ。言うまえに笑い過ぎて声にならないー! あっはっはー!
 ふうふう、息を吐いて吸ってひいひいふう。……よし、ようやく落ち着いた、かな? うん、よし。
 じゃあ、お話するよ。あ、そこの焼き菓子でもつまみながら聞いてくれていいよ。そこまで長い話じゃないけれど、それなりには時間をとると思うし。この焼き菓子は本当に美味しいんだから。食べてみる価値はあると思うね。ほら、僕が紅茶を淹れてあげる。ああ、お礼なんていらないよー。よーし、それじゃあ始めるよ?
 じ、つ、は。僕はついさっき死んじゃっんだよね。27回目(笑) ええ? 嘘じゃないかって? 僕が嘘をつくと思う? あは、思うよねえ。僕は嘘をつくよ。じゃないと人生つまらなくない? どっこまでも真っ直ぐに生きるなんて疲れちゃうよお。あ、でもひとりかわあいい友人はどこまでもまっすぐだったりするんだよね。ほんと、ちょうかわいい。愛にまっすぐでさ、全ての命が彼のまえでは平等なんだ。いいよね、そういうの。だってさ、全て平等なんてかなり難しいことだと思わない? 虫の命も、犬猫も、人もぜえんぶ同じ命だなんて君は言える? 言えないよねえ。大丈夫。それが普通なんだよ、気にすることじゃない。でもねえ、やっぱり選ばれるべき人材は違うと言うべきか、いやいや、【人】という下らない俗物的な言葉でいい表していいものなのか、それすらも疑問を持つね。僕の友人にして唯一無二の村田健の存在理由! 渋谷有利!
 いまはやりの言葉を使うなら、あれだよね! あーれー! 神! ネ甲! (笑)
 うふふ、あはあは! 神だってさ! 自分で言っていてそれこそ笑えるね。神様なんないやしないのに、ああもうなんだよ、神様ってさ。見て見ぬフリが得意で気まぐれに人を助けるんだろ? くだらないね! だから僕は一切に神様なんて信じないよ。僕が唯一信じるモノってなんだと思う? まさか、今の流れで分からないなんて言わないよね? もし不正解だったら、その腐った脳みそ僕がぐちゃちゃにしちゃうぞ(笑) ああ、そんな怯えた顔しないでよ。嘘に決まってるだろう、うーそおおおおお。不正解だった場合は君の目の前にある焼き菓子を一つもらうことにするよ。今日の僕はもうすでに新しい自分に生まれ変わったからね。ご機嫌なんだよ。あっはっは!
 で、分かった? 僕の信じる神様。一度口にしたんだもん、賢い君には分かるさ!
 そうそう! 正解、正解、大正解! そうだよ、僕らのアイドル、渋谷有利原宿不利の只今青春真っ盛りの16歳、ちょおっと道を踏み外して同性とらぶらぶな王様、渋谷有利さ! やはり君は賢いね、正解したご褒美に僕の焼き菓子を一個あげよう! この焼き菓子はとくに僕のお気にいりなんだから十分に味わって食べてくれよ。……ん、なんだい。美味しい、だって! それはそうだろう! なんてたって僕のお気に入りなんだからね。
 ああ、僕結構おしゃべり好きだからすぐに話が逸れちゃうなあ、ごめんね?
 僕はね思うんだ。渋谷は一番神様に近くて相反するものだってね。だって神様はなにもしていないだろう。気まぐれにひとを助けて見て見ぬフリをするんだから。それってさ、ただの人間と同じじゃない? 見えないモノの崇めるなんて無駄なわけさ。勿論そういう僕は無宗教だからね。一応言っておくけど。でも彼、渋谷有利は違うのさ。なんでも助ける、見て見ぬフリはしない。たとえ相手がどんな罪人でも耳を傾ける。そんな人間なんてね、正直いやしないと僕は思うね。ああ、渋谷の存在を否定してるわけじゃないから勘違いしないでね。この世に渋谷が存在しないならそれこそ、この世は暗黒だ。と、いうか、滅亡してるよね。なあに、その目。いいすぎだって言いたいの? 五月蠅いよ。君も渋谷に会ったことあるだろう。次、そんな目で僕を見たらその目抉るからね。で、話しを続けるよ。
 さっきもいったけれどね、【誰にでも平等】が出来るなんて、本当は出来やしないんだ。みな人は全てに価値観をつける。君もそうだろう。蠅や蛆やゴキブリが人間と同じくらい命の価値観があると思うかい? ないだろう? それが出来る渋谷はだから神様なんだよ。まあ、彼も彼でまさか恋人や家族、近しい側近はそれなりに特別な感情を持っているだろうけどね。彼もひとの子だし。
 だけどね、彼はそれ故に欠けているんだ。人としての感情が。君はさ、目の前でひとが死んだら少なからず驚きもするし、友達であれば悲しむだろう。そう、泣いたりするんだ。【普通】であれば、ね。しかしながらしつこく言うように彼のなかでは皆が平等なんだよ。意味、分かる? だから彼の目の前でひとが死んでも彼の感情は揺れ動いたりしないんだ。彼のなかでは皆平等だから、彼のなかでは死は等しい。ひとの死は虫と同等なんにも変わりはしないってことだ。例えば腕がもがれて頭蓋骨が損傷し、手足はあらぬ方向にもげていてもそれに恐怖を抱いたりはしない。まあ、気持ち悪いとは思うだろうね。虫が死んだときと同じくらいには。だけど、それだけなんだよ。そーれーだーけー。ゴキブリがスリッパで叩かれて死んでぐちゃぐちゃになったときと同じ不快感しか彼は人の死から感じ取ることしかできない。なにせ彼のなかで【平等】だからね。平等って言うのはそういうことなんだよ。ある意味恐ろしいね、平等って。
 でもね、僕は思うんだ。別にそれは悪いことじゃないと思うんだ。だって生きてそれが支障になることはないからさ。しかしねえ……。渋谷は欲しいんだってさ【悲しい】って言う感情。僕は失礼ながらも無理だろうなあって思うよ。渋谷がそういう感情を手に入れることが出来るなんてさ。だから僕は提案したんだ。嘘泣きを覚えようって。だって僕は彼の親友だもの。僕の信じるものだから、叶えてあげたいじゃないか。可愛い友人の願いこと。【彼氏に可愛いと思われたい。健気な子だと思われたい】っていうささやかな願い。だから、渋谷の彼氏ウェラー卿が任務で城を空けてるときひっそりと二人で練習してるんだ。いやあ、渋谷はいい子だとしか言いようがないよね。とても健気だ。だんだんと可愛らしい嘘泣きも手に入れているんだよ、現在進行中で。

 けど、やっぱり手に入れたいらしくてさ、悶悶と悩んでいたから、僕は言ったんだ。

『僕を殺していいよお』って。

 友人が死んだら、悲しむ感情を手に入れられるかもしれないじゃないか。だって友人だよ? それに僕は親友さ! きっと渋谷も何か感じとることができると思ったんだよね。ああ、恐怖なんて全くないよ。だって僕は彼がいてくれればそれでいいもの。自分は渋谷のために存在してるんだって、生まれたときから知っていたから、役に立つなら僕は死ねるさ! 喜んでね! あは!
 僕はね、渋谷を愛しているんだ。陶酔してる溺愛してるだって可愛いもの。大好きだーもーのおおお。でもね、恋人になれなくてもいいんだ。別にウェラー卿が僕の愛しい渋谷とセックスしてもキスをしても何をしたって構わないよ。ウェラー卿が渋谷の首を絞めていたとしてもね。別にいいんだ。渋谷を殺してしまっても。僕は別にいい。渋谷がそれで幸せならいいんだ。渋谷が死んだら僕はこの世界を破壊して自分も死ねばいいだけの話だから。だから、僕はそんなことを提案したんだあ。ああ、あのときのきょとんとした渋谷の顔はとても可愛らしかったなあ。

 で、僕は今日も彼に殺されたワケさ! 優しいからね、渋谷は僕を蘇生させてくれるんだ。渋谷が僕を殺す度に、嬲る度に欲情しちゃうね、優越感を感じちゃうね。だってこんなこと僕しか出来ないことだもの。君には出来ないよ。だって、そこまで人を愛したことがないだろう?

 ん、ああ。お茶がなくなっちゃったね。お菓子も少なくなったし、今日はこの辺でお茶会をお開きにしよう。
 うふふ、君って聴き上手だよねえ。僕ご機嫌に話しちゃったよ。ああ、でもこれって、ひとり遊びっていうのかな? どうでもいいけどさ! だって可愛くない? 高校生がおっきなテディベアとお茶会してるなんて!

 ああ、お茶会楽しかった!

END
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テーマ「人外ファンタジー」
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