あの微笑みを見ることは出来ない
title 亡霊
『男女の友情は成立しない』
とよくいうがあれはきっと間違いだと有利は思う。
星の数ほど男も女も溢れているのだ。ひとの数だけ考え方、法則、嗜好があるのに恋愛対象が異性のみだと決まっているわけではない。
もしかしたら『恋愛』よりも『友情』と呼ばれるもののほうがずっと貴重なモノなのかもしれない。
地球から血盟城にある中庭の噴水からスタツアした有利はいま、きっとそうだ、と確信をする。
水に濡れたからだを寒さから防ぐバスタオル。そして雫をぽたぽたと落とす髪をタオルで柔らかく、乾かす男の足元に視線を落とした。
じくじくと胸が痛い。
『友情』など、ほとんどないのだとそう最初からわかっていればよかった。
わかっていれば、手遅れにならなかっただろう。
回避できたかもしれない。もしくはもっとほかの付き合いかたができていたかもしれない。
そう後悔しても、もうどうにもならないがこうして彼にやさしく触れられるたび、そう思わずにはいられないのだ。
コンラッドにたいして自分が抱いていた『友情』が『恋愛感情』だとわかっていれば、いつか告白できていたかもしれないのに。
「どうかしましたか? 気分でも悪い?」
顔を見ていないくせになにかを察したコンラッドが尋ねる。
「……いや、なんでもない。スタツアしたときに思いきり水を飲んじゃったみたいで」
そこまで察したのならいっそこの想いにも気づけばいいのにと問いにたいして嘘を述べた自分を棚に上げながら有利はコンラッドに腹を立てる。
しかし、ありえない話だとわかっているが、もしコンラッドが自分の気持ちを悟っていたとして、もしくは同じような感情を持ち合わせていたとして。この男も自分と同じようになにもいわないような気がした。
どちらにしたって、やはり気づくのが遅すぎたのだ。
――もうこの関係は変わらない。
男女の友情が成立しないと同じくらいよく耳にする言葉が有利の頭の中に浮かんでくる。
この男が、コンラッドが好きだと想えば、想うほどその言葉は自分のことを嘲笑い、戒める。「おかえりなさい、陛下」
「ただいま。っていうか、陛下って呼ぶなよ。名付け親のくせに」
このやり取りはきっといつまでもなくならないだろう。なくなったとしても、それはおそらく自分が望むような関係ではないことはたしかだ。
このやりとりがなくなったとき、コンラッドは自分のまえから消えるような気がする。
本当の想いを口にしても、きっと彼は受け入れてくれないだろう。
――友だちから恋人になるのはとてもむずかしい。
距離が近ければ近いほど、この想いは報われない。
自分は一生、この笑顔しか見ることしかできないのだ。
有利は髪から滴る雫に紛れて静かに地面に涙をそっとこぼした。
あの微笑みを見ることは出来ない。
(恋人が見せる特別な微笑みを彼が自分に向けてくれる日はないのだ。)
END
これは恋愛の法則。