また出逢えたらいいね | ナノ

また出逢えたらいいね
title everlasting blue


 ユーリは『好き』や『愛してる』と全くといいほど口にしてくれない。ユーリがその類のセリフにするのが恥ずかしいからだとコンラート知っているので、それらを言って欲しいと強要することはない。
 それらを言ってくれずとも不安にはならない。そんな言葉がなくとも互いのあいだには信用と信頼と愛がたしかにここには存在しているからだ。
 そうして、ユーリとふたりで寄り添うに生きてもう数百年になる。
 成長速度が遅いと言われる魔族の血を引き継いでいるが、さすがに数百年にも経つと老いてくる。食欲は減り、顔や手などいたるところが皺だらけだ。しかしそうした日々老いるなかでも変わらないこともある。むしろ増えたものがある。
 増えたのは、ふたりで過ごす時間。
 王を退任し現在ユーリは隠居生活を送っている。
 隠居したからとはいえ悠々自適な生活を過ごしているとは言わないが、それでもこうしてなにをするでもなくソファーにふたりで腰をかけ、互いの肩を寄せあう。そこには会話があったり、なかったりもするが会話などなくても不思議と心地がいい。
 そうして穏やかな時間を過ごしているとふと「いい天気だな」とユーリが言い、窓のそとを見つめる。
 コンラートもまたユーリの視線の先を追って外の景色に目をやる。空には青が広がり、悠然と雲が漂っている。コンラートの部屋は二階にあるので、中庭を見ることはできないが、中庭からは微かに新兵が指南を受けているハリのある声が聞こえた。戦争に向けて訓練されているのではい、警備を主とした訓練の声が。
 もうここ数百年、この世界に戦争が起きていないのだと思うとうれしくなる。
「……そうですね、とても良い天気だ」
 コンラートは読書をしていた本に栞を挟んで閉じる。すると、ユーリがコンラートの肩に頭を凭れた。双黒の愛称で慕われていた彼の艶やかな髪は若い頃に比べると艶やハリが失われぱさつき、白髪が混じっている。
「またコンラッドとこんな生活できたらいいよなあ。生まれ変わっていまの記憶がなくなっても出逢ってこんな風になれならいい」
 なんでもないように呟いたユーリの言葉に、コンラートは一瞬目を見張り、それから目元に皺を刻みながら微笑む。
 ――ああ、ほんとうにあなたには敵わない。
『好き』や『愛してる』なんて言わないのになぜそれらの愛の言葉よりももっと、強烈で切なくてうれしい言葉をユーリは知っているのだろう。
「……そうですね」
 コンラートはそっとユーリの手を握りさきほどと同じセリフを口にする。重ねた手はどちらもよぼよぼで不格好なのに、若いときに手を繋いだときよりもずっと手に馴染む。
 ここまで年を重ねればあと何年生きられるのかおおよその憶測ができる。死ぬのが怖くないと言えば嘘になるが、こうしてぽつりと本音をこぼしたユーリの言葉が胸に影を落とす恐怖をやわらげてくれるのはたしかだ。
 もう先は長くないけれど、こうしてふたりで生きてきたことが充実していると、しあわせだと言ってくれるのならばそれはどんな言葉よりも自分を幸福にしてくれる。
「大丈夫。きっと来世でも俺たちは出逢いますよ」
 明日のことさえ、定かではないのに来世のことなどわかるはずがない。けれども、なぜか嘘でもその場しのぎのものでもなく、そうなるだろうと言う確信がコンラートにはあった。

END




  
 
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