愛してるって囁くかわりに、きみの知らない言葉で鳴いた | ナノ

愛してるって囁くかわりに、きみの知らない言葉で鳴いた
title リラン


 コンラッドは、はずかしいことをさらり、と言う。
 それこそ、なにも考えていないと思うほど無意識に。いや、意図的に言っていると思う点も多々あるが、どちらだっていい。問題はそこに羞恥がないということだ。コンラッドの羞恥もおれがぜんぶ請け負っているくらいに。
 格好のいい男はだからこそ、歯に浮くようなセリフがいえるのかもしれないが、だからと言ってゆるされることではない。
 そう。たとえばいまのような状況とか。
「――ね、ユーリ気持ちいい?」
「……っさ、ぃ!」
 メイドさんが、しわひとつなくベッドメイクをしてくれたシーツをぐしゃぐしゃにしているこの状況でなにを言ってるんだろう。こいつは。
 熱でうかされ、自然現象か目には涙が盛りあがる。それでもおれを見下ろす男のにやり、と笑う表情はよくわかった。こんなに涙が浮かんでいるんだから、この男のかおもぼやけてしまえばいいのに。
 余裕綽綽とした表情が憎らしくて、おれはコンラッドを睨めつけ、悪態をたたく。
「言ってくれないとわからないんです。俺だけが気持ちよくなっていたら、セックスしたって意味がないでしょう?」
 が、コンラッドにはまったく効力がないらしい。しかも「睨んでも、逆効果ですよ。嗜虐心をそそられるだけです」とまで言ってくる。
 ――ムカつく。
 トルコ行進曲によろしく早口にコンラッドに罵詈雑言を浴びせてやろうかと思うも、快楽に脱力したからだはいうことを聞かず、呂律もまわらない。
 与えられる快感はだんだんと強く、濃厚なものへ変化をしていく。もうすぐ果てがちかいというのに、いちばん感じる場所からわずかにそれた個所を何度も突かれて無意識に自分の腰がうごめく。
「腰が揺れてますよ。腰を動かして……ユーリ、どこを突いてほしいんですか? 言ってくれたら、そこをかわいがってあげますよ」
 恥ずかしいセリフとともに意地のわるいことばも投げかけられる。
 それはエッチの際中などふたりきりになったときにちらり、とみせるコンラッドの一面。おそらくおれに甘えてくれるからなのだろうと思う。普段のコンラッドであればぜったいこんなセリフをしないから、自分に気をゆるしている証拠なのだろう。
 しかし、だからと言ってゆるされないことだ。
 ゆるされざるべきことだ。
「……っぃ」
「ん?」
 どうやら声がちいさくて、聞こえなかったらしい。『ん?』じゃねえよ。かわいこぶんなつーの。いいとしこいた大人なくせに。
 おれはシーツを掴んでいた手をどうにか手放し、コンラッドへと手をのばす。すると、彼は上半身をこちらへと傾けておれの手をくびにまわすように促した。
 おれはすなおに男のくびにうでをまわして、かおを耳へとよせ、彼が聞こえなかったというセリフをもう一度くちにする。
「あんた、意地がわるいっていったんだよっ!」
 このまま鼓膜が裂けてしまえばいいのに、と思うくらいのボリュームで言ってみたものの、言うないなや視界のはしで彼の喉ぼとけが上下した。表情なんてみなくたってわかる。
 こいつ笑ってやがる。
 ちょっとくらいは痛い目をみればいいのに、なんて思う反面なんでエッチの際中におれはケンカ腰になってしまう自分もどうかと思うけど、腹が立つからしかたがない。
 がぶり、と意趣返しのつもりで耳たぶを噛んでやる。すると内壁にある男のモノが嵩が増し、息が詰まった。
「……あなたも充分、意地が悪いと思いますけどね。どうにか理性を保とうとしている絶妙なタイミングで煽ってくれるんですから」
「は? 言ってる意味がわかんない」
「でしょうね」
 おれのなにが意地がわるいのか教えてくれる気はないらしい。だか、聞いたところでムカつくだけだと思うからそれ以上は追及はしなかった。
「……ほんとうに、ユーリはかわいいから困る。かわいがりたいのに、もっといじわるもしてみたくなる」
 眉尻をさげてコンラッドは微苦笑をうかべた。意地がわるそうなかおをしていたかと思えば困ったかおをみせ、彼は前触れもなしに腰を打ちつける速度をあげ思わずおれは息を詰まらせた。
「っひぁ……!」
 そうして徐々に意識が朦朧としていくなかでコンラッドが呟く。
 もう何十回、何百回と聞いた。耳にタコできるほど聞いた『愛しています』を。それにたいして、ほんとうはおれの返事が聞きたいのだろうとはわかっているが『おれも愛してる』なんてこっぱずかしいこと言えるか。
 っていうかわかるだろ。「気持ちいい」とか「愛してる」にたいしてのおれの返事なんて。だけど、コンラッドの気持ちもわかる。知っていても聞きたいことがあること。
 でもやっぱり素直にいえるはずもない。それでも、意地のわるい男を喜ばせてやってもいいかなという一握りの良心がおれのくちからこぼれ出した。
 あんたみたいに恥ずかしげもなく愛のことばなんて言えないけどこんなに喘いでいればわかるだろ。
 どれだけ、あんたに翻弄されてるかなんてさ。


愛してるって囁くかわりに、きみの知らない言葉で鳴いた
(わかったようなかおをして、うれしそうに笑ってんじゃねえよ。)


END




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