がりりと音を立てて星をかみ砕く | ナノ

がりりと音を立てて星をかみ砕く
title 吐く精


 ようやくにお父さまに会えたというのに私の気持ちはとても憂鬱だった。
 だってこのあいだの学校のテストが今日返却されたそれがあまりにもひどい点数だったから。
 がんばったつもりなのだけれど『つもり』なのだから、自分に努力が足りなかったのだろう。
 定期的にお父さまに宛てている白鳩便でテストがあったことは連絡しているから隠したい気持ちでいっぱいだけど、お父さまに隠しごとをできるはずもなく私はおそるおそるユーリに答案用紙を手渡す。
「八十五点! すごいじゃないか!」
 答案用紙に目をうつした瞬間、ユーリはそういってくれたけど私の心はぜんぜん晴れない。
 だって私は将来王女になるのが目標で、なによりこの世界のだれもがうらやむお父さまの娘なのだ。こんな点数を取っていいわけがない。
 私はユーリの褒めことばを否定するようにくびを横に振るう。いまさらながら自分の不甲斐なさにいたたまれなくなり、涙もつぎからつぎへと瞳から溢れ頬をつたいこぼれ落ちていく。
「……っごめんなさい! つぎは絶対百点をとるから、だから、だからお願いっグレタのこと――きらいにならないで」
 怒られても、嫌われてもしかたがない点数をとってしまったのに私はユーリにすがってしまう。
 お父さまに愛されて、甘えん坊になってしまった自分が、気を抜いてしまってこんな点数をとってしまった自分がなさけない。
「グレタが頑張ってること、おれはちゃんとわかってるよ」
 だけど、お父さまは笑顔を浮かべたまま私のあたまを撫でてくれた。
「グレタが白鳩便を飛ばして連絡してくれるあいだにも、いろんなグレタのうわさがよくおれの耳に入ってくる。勉強熱心で、友だちにもやさしい、かわいい子なんだって、おれそういう、うわさを耳にするたびに誇らしい気持ちになってるんだよ?」
 ユーリが私の涙をハンカチで拭い「手を出して」と胸のまえで両手を差しだすように言う。その意図がくみ取れなくて戸惑いながらも私はユーリの言うように手を出せば手のひらに涙を拭ったハンカチを置きそのまま私の手をぎゅっと握った。「頑張り屋のグレタに魔法をみせてあげる」
 そうしてもう一度手を広げるようにされるとそこにはハンカチはなく、かわりに薄ピンクの紙包み。
「……これ、なに?」
「グレタの涙を砂糖菓子にしたんだ。食べると甘くて元気がでるよ」
 言って、お父さまは紙包みをあける。そこには色とりどりのツンツンとやわらかいとげのあるちいさな星のような粒があった。それをユーリは一粒つまんで私のくちのなかへ。
「あまい……」
 ちいさなちいさな粒。だけど、それは胸のあたたかくするようなあまさとちからがあった。
「やっと、泣きやんでくれた」
 言われて、自分の涙がひっこんでいたことに気づく。
「ジュニアはおれの自慢の娘だよ。ひとにやさしく、自分に厳しいことはいいことだけど、自分の気持ちに無理させちゃだめだ。グレタのペースで頑張ってくれればいい。なまけちゃったらおれがちゃんとそれはだめだって言うから……ね、かわいいグレタの笑顔をみせて」
 私は改めて実感する。あたまをやさしく撫でるお父さまはこの世界でいちばんすごい素敵で魔力の持ち主であるということを。
 ユーリはああいってくれたけど、私はいままで以上にがんばろうと思う。今度のテストは絶対に百点をとってお父さまに褒めてもらうの。
 お父さまが誇り思ってくれる娘でいるために。
 私はしょっぱい涙を甘いお菓子にかえてくれたそれを一粒、一粒味わいながらひっそりと誓うのだ。
 


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