二律背反から抜け出せない


 末弟のヴォルフラムに水を頭からかけられ強制的にコンラートがスタツアをしたさきは、浴室であった。
 軍服がたっぷりと水を吸って重い。
 湯が半分まではられた風呂から立ち上がり、コンラートはそこから動けずにいた。
 ヴォルフラムや猊下にもう遠回りすることはやめろと言われたが、そう言われてもいまさら一体なにをどうしていいのかわからない。
 ユーリをみつけてなにを言えばいいのだろう。
『きみたちふたりの問題なんだから、きみたちが解決しないと』
 そう猊下は言っていた。つまりおそらくは、話合えということなのなのだろう。
 自分は本当に底意地の悪い奴だ。話合うことで己の気持ちをユーリにぶつけて嫌われてしまったらと考えてしまうのだから。
 寝ていた彼に何度も自分の想いを囁いた。報われないからこそ、そうして腹の奥で蟠る感情を昇華していたのだ。
 ユーリが自分を愛してくれるはずがないのだから。
 わかっているのにその想いを当人に告げてなんになるというのか。
 ユーリに嫌われてしまったら自分はもう生きていけないというのに。
 不安がからだじゅうを巡り、足がすくんでしまう。自らの命がかかった戦争でも足がすくむ、なんてことはなかったのに。
 が、つぎの瞬間。コンラートの足は動いていた。
 となりの部屋から声がする。
 愛しいひとの声がした。
 喘ぐような声が、かすかに聞こえたのだ。



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