――着てしまった。
 おれは目の前に建つ建物を見ながら、こくりと唾を飲み込んだ。
「ここは、カラオケ店ですか?」
「う、うん。コンラッドはカラオケとか苦手だった?」
 デートはカラオケだと決めたとはいえ、カラオケ店を目にしたコンラッドの反応におれは若干不安になる。よくよく考えてみれば、カラオケなんて学生が主に遊びに行くイメージがあるし、コンラッドがカラオケをする想像がつかない。
 おずおずと尋ねれば、ぽんと頭に手を置かれてくしゃり、と髪を撫でられた。
「そんな顔をしないで。正直、カラオケにはあまり足を運んだりはしませんが、歌うのは好きですよ。誘う相手もいないので主に車内で鼻歌程度ですけど。なにより、あなたが誘ってくれたのがうれしいんです」
 そう言って笑うコンラッドの笑顔はすごくやさしい。どちらにせよ、自分は臨機応変なことはできないし、おれはコンラッドと店内に入り、予約をしていた部屋へと向かう。
「……いまのカラオケの部屋ってこんなに広くて豪華なんですね」
 感心したようにコンラッドは呟いて室内を見渡す。
「いや、普通のカラオケだったら部屋はせまくて最低限のものしかおいてないと思うよ。おれもまさかこんなんだとは思わなかったし」
 おれもコンラッドと同じように部屋を見渡してちょっと戸惑ってしまう。予約をしていたとはいえ、人数と利用時間によって部屋の大きさやランクは変わってくるといままで思っていたけど、ここは違うらしい。
 パーティルームですか、といいたくなるような広さに自分の家のよりもずっとふかふかに見えるランクの高そうなダークブラウンのソファーと大きいクッション。内装はブラウンで統一してあるのか一見高級料理店の個室のような作りになっている。だいだい色の間接照明がまたおしゃれだ。
 ここなら武田と岡田が言っていたように、合コンとしてはもってこいの場所だと思う。
 室内の高級感にのまれてしまったけど、このカラオケ店にきて正解だったかも。
 雰囲気も遊ぶというよりデートっぽいし。
 緊張しながらおれはソファーに腰をかけ、となりにコンラッドがすわる。それだけで、ちょっとどきどきしてしまった。
 さっきだってコンラッドの助手席に乗っていたけどさっきよりも近い距離。それから当たり前のようにとなりに座ってくれたことがうれしい思ってしまう自分はかなり乙女思考だ。
「すぐに歌いますか。それともなにか飲み物でも頼みます?」
「あ、えっと、の、飲み物欲しいなっ」
 歌うのが目的だけど、いまの状態で歌える気がしない。ぜったいマイクを持ったまま固まる。
「わかった。それじゃあなににしましょうか」
 テーブルサイドに置いてあるメニュー表をコンラッドがとりふたりの前に広げた。
「けっこう種類がありますね」
「そ、そうだね」
 ぴったりとくっついた肩。そこから彼の体温を感じる。
 やばい、やばいぞ! これ……っ!
 いままでコンラッドとデートはしたことはあるけど、こうして完全に個室でっていうことはなかった。いつも周囲の目を気にして手をつなぐこともあんまりなかったのと久しぶりのデートだからかうれしいのと同じくらい緊張してしまう。
「俺は……アイスコーヒーにしようかな。ユーリは?」
「……メロンソーダにする」
「了解。へえ、てっきり電話で注文するのかと思ってましたが、いまは電子パネルで注文できるんですね」
 緊張しているおれとは反対にコンラッドは最新式のカラオケ店に若干楽しそうだ。
 ……まあ、でも喜んでもらえたらならよかった。
 緊張はいまだにほぐれないけど、まだまだ始まったばかりのデートにおれは小さく心のなかでガッツポーズした。






恋のアンテナ三本バリ立ち

(久しぶりのデート。スキンシップ。それだけでにやけてしまう自分はきっと乙女思考)

thank you:草臥れた愛で良ければ





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