目に入れても痛くない、可愛すぎて食べてしまいたい俺の恋人はことあるごとに俺を褒めてくれる。
 ユーリから初めてデートに誘われて待ち合わせ場所に早く到着してしまった。自分から彼を誘うときもそわそわとしてしまうが、いまはそれ以上に気持ちを落ち着かない。
 これまで何人かとつきあってきたことはあるが、相手からデートに誘われたことはなかった。あったとしてもそれは俺を誘導するようなものばかりだ。某高級ホテルに行きたい、いま人気のレストランへ行きたい
とか。いわずともこちらのおごりで。もちろん、おごることにたいしては気分を害したことはない。古い考え方といわれるかもしれないが女性に割り勘やおごってもらうことには気がすすまないからだ。付き合ってきたひとたちはみんな俺の家柄や顔が好きだったように思える。恋人の知人に紹介されるとき俺を紹介し長所をあげるのはいつも俺が持つそれらのことばかりだからだ。それが悪いとは思わないが、それがすべてであるような錯覚を起こす。自意識過剰なのかもしれない。ゆえに別れ話を切り出すのは相手からだった。相手が変わっても別れのせりふはいつも同じ。
『あなたにとって私はいてもいなくても同じみたい』
 ……まあ、たしかにそうだったのかもしれない。
 言われてあとを追うようなこともことばもかけなかったし、ただ相手の要求に頷いてだけなのだから。数日も経てば付き合っていたということだけが記録として脳に残され、なにをしたのかどんなひとであったのか、名前だったのかすらも曖昧になり――忘れてしまう。
 だから、きっとユーリという少年へ抱いた感情は自分にとって初めてありこれが初恋だと言える。
 彼は自分がどんな人間であるか理解してくれようとする。外見でも家柄でもなく、コンラート・ウェラーという個人をみてくれるのだ。
 自分自身をみてくれることがこんなにもうれしいことだなんて思わなかった。ずっと見て欲しいとは願っていたが心のどこかでそのことをあきらめていた。
 渋谷有利、という少年がどれほど自分をしあわせを与えてくれたのかわからない。きらきらと輝く少年は学園でも近所でも愛されるひとなのだが、不思議なことにいまま
で恋人ができたことも好きなひとができたこともなかったという。恋人ができないのは、彼の親友である猊下こと村田健が日夜鋭い視線を光らせているのと、ユーリファンクラブの人間が牽制しあっているからであろう。
 本人が気がついていないだけで、ユーリはアイドル並にモテている。それこそ自分とは比べものにならないくらいに。
 ――はなしが逸れたので最初に戻るが、高嶺の花であるユーリと補習授業を通して恋人になって今日は初めて彼からデートに誘われ、デートプランを考えてくれた。
 ユーリはどこへ連れていってくれるのだろうか。考えるだけで恥ずかしくも昨日はなかなか寝付けなかった。
 コンビニエンスストアに入り、適当に朝食を見繕いここまで電車と徒歩でくるであろうユーリにココアを購入し着いた彼を車に乗せてココアを手渡す。
 それだけで顔を綻ばせるユーリが本当に愛おしい。
 ユーリの誘導を受けながら車を走らせる。
「今日はどこに連れてってくれるんですか?」
 尋ねるとユーリはすこしだけ顔を曇らせた。
「……どうかした?」
「んー、コンラッドに楽しんでもらえるかちょっと不安で」
「でも、いろいろと考えてくれたんでしょう?」
「うん」
 信号が赤になり、車を停止させて俺はユーリの顔を覗き込んでかすめるようにキスをした。
「あなたが俺とのデートを考えてくれただけで、俺のことで頭をいっぱいにしてくれるだけで十分なんです」
 隣にいるきみは知らないんだ。俺がどれだけいま舞い上がっているのか。







わたしに感情を教えてくれた人

(好きになってくれてありがとう。愛していますを何十回伝えても足りないんです。俺は、驚いたように彼の目が大きく見開いて頬を赤く染めるユーリを横目にシフトレバーをいれた。)

thank you:チエラ





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