そんなこんなで、村田のメール内容に悶悶としていたらあっという間に時間がすぎて気が付いたときには日課であるロードワークはできず、朝食も学校へ行くときと同じでトーストを一枚かじりつきながらバタバタと家をあとにした。
 待ち合わせの場所は隣駅の駅内にある銅像のまえ。
 電車は一本早いものに乗ろうと思っていたが、結局待ち合わせ時間ぎりぎりの電車に滑り込むようにして乗り込んだ。
 休日ということもあって、車内はひとであふれていた。駅までの道のりを猛ダッシュしたので、まだ心臓がばくばくとしている。たぶん、ばくばくとしているのは走ったからだけが理由ではないと思うけど。
 地元からどんどん景色がはなれていく。そうして、電車に揺られて数分でコンラッドと待ち合わせをしている街の名前がアナウンスされた。
 いまだ心臓の音はうるさいままだ。



 人波に流されるように、ホームの階段をくだり改札口へと出る。某犬の銅像が設置してある大通りを一本過ぎた細い通りにあるコンビニのまえが待ち合わせ場所だ。最初はわかりやすい銅像のまえのほうがいいかなとも思ったけど、コンラッドは身長が飛びぬけて高くしかも格好いい。学校ですらいつも彼を慕う女の子に囲まれて、まともにはなせるときと言えば授業と放課後くらいしかない。それが、外でひとりでいたりなんてしたらそれこそアイドルや俳優並に囲まれちゃっておれなんて近づけないんじゃないかなって思った。十人中十人がイケメンだと認めるだろう男性が、どうしておれを好いてくれるんだろうとやっぱり疑問だ。
 大通りを抜けて、目的の一本道で出てコンビニエンスストアが見えてくる。待ち合わせ時間ぎりぎりではあったけど、時間よりは早く着いた。まだ彼は来ていないのかも、と思ったが、コンビニの駐車場に見覚えのある車が停車しているのが見え、運転席のドアが開く。
「おはよう、ユーリ」
「お、おはよう! コンラッド」
 付き合った当初よりは彼のことを名前で呼ぶことに抵抗がなくなったものの、いまだ完全に慣れない。名前で呼ぼうという気持ちが先走ってどもってしまい不自然な挨拶に羞恥をおぼえた。
「待ち合わせより、はやいね」
「ユーリとデートだと思うともう良い歳なのに、そわそわしてしまって。なにか、コンビニで買うものありますか?」
 とくになかったので首を横に振ると「では、行きますか。車に乗って」と助手席のドアを開けて案内される。
 コンラッドはダークグリーンのウールショートコートにストレートデニム。シンプルな装いだけど、着こなすのは難しいように思える。デートのたびに学校とは違う大人の香りが漂う彼にいつもどきどきしてしまう。
「今日は朝から気温が低いから、これ買って来たんだ。すこしぬるくなっちゃったけどよかったら飲んで?」
 おれを待っているあいだにコンビニで買ってくれてくれたのだろう。ビニール袋から、ペットボトルのホットココアを差し出された。
「あれ、ココア嫌いでした?」
 不安そうにコンラッドが尋ね、おれが慌てて否定した。
「いやそういうんじゃなくて、コンラッドって本当に気が利くなって思ってさ。……おれもコンラッドみたいなスマートなリードしてみたいなあ」
 せっかくのデート。会ってまだ数分しか経ってないのになんでこんなこと言っちゃうんだろう。言うつもりはなかった。だけど、単純脳は心の声を自然に口に出してしまう。コンラッドは車のエンジンをかけながらそっとおれの頭を撫でてくれた。
「そうみえたのならうれしいな。俺はあなたのことばかり考えてるんです。あなたが喜んでくれることをしたい。だから、些細なところでも格好いいと思ってほしいと思うんです。俺みたいな、といってくれるのはうれしいけど、俺はユーリがユーリであることが一番いいと思います。デートに誘ってくれたこと、本当にうれしかったんですよ?」
 そういっておれの顔を覗き込むコンラッドの顔と声があまくてぼっと顔が熱くなる。
 好きだ、このひとがほんとうに好き。
 いまのおれを好いてくれるコンラッドが好きだ。
「ありがとう、コンラッド。ほんとうにコンラッドっておれにはもったいないくらい格好いいな。そういうところ――すき」
 いまなにもないおれができることといえば彼に気持ちを伝えることくらいだ。最後のことばは小さくなってしまったけど、ちゃんとコンラッドに伝わったみたいだった。コンラッドの頬がわずかに赤く染まる。
「……やっぱり、ユーリにはかなわないよ」
「?」
「わからないならそれでいいです。それより、どこへ向かいますか?」
「とりあえず、大通りに」
「了解」
 ゆっくり、車が走りだす。おれはもらったココアのやさしい甘さを口のなかで転がしてちいさく口角に笑みを浮かべた。
 リードしたいとは思うけど、まだまだおれはこどもなんだ。今日はやれることやって貴重なふたりの時間を楽しもうと思う。

  




言葉を話せるいきもので良かった

(なんて、思っちゃうほどおれも彼のことで頭がいっぱいになってることをきっとコンラッドは知らないんだろうなあ)

thank you:にやり





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