綺麗なままの君で居て欲しい



 猊下の言うように、たしかに主は成長したように思える。不躾なことばを向けても周りが見えなくなるような怒りを表すことはせず、たんたんと自分の思いを口にしていた。が、それはわずかな成長に過ぎず、並べられた感情とことばは紡ぐに連れてちぐはぐなものに変わる。ばらばらに散らばるパズルピースを彷彿させた。主、ユーリのことばはちぐはぐではあったがコンラートの胸を突くものでもあった。
 ――神様じゃない。ただの人間。
 たしかに主の言う通りだ。ユーリは神様ではない。魔王という肩書きを置いておけばまだ十代という地球では恋愛、遊び、勉学についてすべてにおいて興味が出てくる年頃。
 自分はわかっていたはずだ。主が王としての重みに潰れそうになったとき何度もそのことを悟してきたのだから。けれども改めて自分が彼に求めていたものが矛盾していたと言われてはじめて気がつく。
 王に近づくには様々な経験が必要で、必然的に汚れなければならない。
 神に近づくには汚れる行為に身を投じてはならない。神の使者として遣わされたフランスのジャンル・ダルクのように。
「……あなたの仰るとおりだ、ユーリ」
 コンラートは受け取った上着とシャツを丁寧に畳む。まだ衣類には温もりがわずかにあって、ついさきほどまで主がいたのだと指先に教える。衣服に顔を埋めればすこし香る体臭。しかし、それはいままでと違う。ほんのり甘い香水の匂い。もしかしたら、昨晩も房事を受けたのだろうか。白いシーツと息を乱して、汗をかいて……長い夜をこの一ヶ月何度過ごしたのだろう。
 夢で何度も自分はユーリを抱いてきたはずなのに。どうしてだろう、一体どんな顔で声で、ユーリが情事に身を投じていたのかいまは想像ができない。できないから、腹が立つ。
 眞魔国の王の房事ともなれば、将来を考えて男女の講師を雇ったの可能性が高い。なにも知らなかった肢体に思考にどれだけの知識と経験を重ねたのか。じわじわと熱が胸のなかで生まれる。
 予想できないゲームほど楽しいものはない。が、このような展開はおもしろく、ない。
 地球で過ごしていたユーリが房事というものを最初から知っていたとははむずかしい。今年で十七歳になり、昨年よりは仕事も慌ただしくなくなったのを考えると房事の件を持ち出したのはグウェンダルとギュンターの可能性が高い。しかしいま持ち出さなくてもいい話だ。そうなると、彼らに話を持ちかけた人物と言えばあのお方しかいないだろう。
「まったく、なにを思ってゲームをこんな風にしたんですか。――猊下」
 このような終焉を自分は望んでいないのに。
「……ゲームを楽しんでいいのは、俺だけですよ。ひとは神にはなれないと知ってます」
 けれど、ユーリには神に近いひとになってほしかった。そして、神の座から落とす罪は自分が行いたかった。
「ユーリには綺麗なままでいて欲しかったのに。俺の手以外で汚れてしまうなんて」
 腰にある剣を抜くと、コンラートは衣類を幾重にも引き裂く。どうせ、代わりの衣装なんていくらでもあるのだ。しかし、ユーリには代わりはいない。
「赦さない」
 猊下も、ユーリも。
 コンラートは、小さく呟くと脱衣所をあとにした。


ゲームをバグは早急に排除しなければ。――また綺麗なあなたに戻ってもらわないと。
thank you:怪奇

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