隣り合わせの戻らない日々




 なんだ。案外ふつうに笑えるじゃないか。それに会話もできる。
 今日はあまり体調がよくないからとロードワークを散歩に変更したので一ヶ月ぶりに彼、コンラッドとふたりきりで過ごすことに若干不安があったがそれは自分の考えすぎだったようだ。話題はそれなりに豊富で尽きることもなく居心地の悪い気もしない。むしろ一ヶ月以前のほうが苦痛だったように思う。
 時間が経てば気持ちも落ち着くということなのだろうか。ときおり、思いだしたかのように胸に痛みを覚えたりこともあるが、その痛みもすぐに消えていく。
 よかった。
 有利はちいさく息を吐いた。
 この調子でいけば、自分の描く未来も現実になるだろう。だれにたいしても平等に愛情を注いで、だれもが安心する家庭を築く。胸にちいさく芽吹く葉は近々枯れる。――すべてをなかったことにできる。だれも傷つけることなく、みんなの想い描く素敵な王様になることができる。
「どうかなさいました? 安心したように笑って」
「え、おれ笑ってた?」
 言われて動揺する。忘れていたわけじゃない、たぶん油断していたのだ。コンラッドがひとの表情を読み取ることに長けていることを。けれど、動揺したからと言っていまの自分はむかしのように誘導尋問でぺらぺらとしゃべるばかじゃない。彼と離反してからうそは簡単につけるようになっている。
「あたりまえだろ。……だって、一ヶ月もあんたと別行動してたんだ。また一緒にいられるのかなって思うと口元も緩んじゃうって」
 こんな心にもないことも平気で言えてしまうくらいにはうそはつけるようになったのだ。繰り返しうそをつき続けるとそのことにたいして後ろめたさも罪悪感も感じなくなる。
 ……こういうのを汚い大人っていうんだろうな。
 だが、成長した証なのかもしれない。コンラッドがいない一ヶ月でより、大人になったような気がする。考えてみれば、村田やヨザック、みんながいうように自分は彼に甘え過ぎていたのだ。いつも心のどこかで甘えていた。彼は一生を自分に尽くすと言っていたがそれはもしかしたらそうじゃないかもしれない。所詮口約束なのだから。
 散歩もあとすこしで終わる。中庭の噴水を過ぎたらゴールだ。
 澱んだ思考とは反対に今日は雲ひとつない晴天。だからどうしたといことでもない。が、これ以上詮索されないためにもコンラッドの知っている『ユーリ』を演じなくてはいけない。空にむかって手をのばして柔軟する。
「んー、今日も仕事がんばらなきゃ。けっこうおれここ一ヶ月成長したんだぜ? だから今日からはちょっと息抜きさせてくれよ」
 キャッチボールとかさ。なんて言うのもうそだ。できるだけもう彼とは親密な時間を過ごすことなんてしたくない。「ええ、もちろん」と笑うコンラッドにはしゃぐしぐさもうそ。今日はグウェンダルに頼んで休憩もできないくらい仕事をもらおう。
「それじゃあ、朝食のまえに汗を流してくるよ」
「わかりました」
 変わらない会話。安心する。そういまある感情を捨てるだけでいい。
 王と護衛のあるべきすがたにもどるだけ。


おれはなにひとつ間違ってなどいない。三歩後ろを歩く護衛の視線を背中に感じながら浴場へと向かう。
thank you:怪奇

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