「さいきん、ユーリはいそがしそうだね」と、少女はコンラートに声をかけた。「でも、コンラートもいそがしそう」 「大人は、働いているからね。みんな、いそがしいんだよ」 コンラートはそう返答して、魔王の養子である少女、グレタのまえにあたたかい紅茶と、下女が用意した焼き菓子を置くと、グレタは顔をうれしそうにほころばせた。 「このお菓子とっても好きなの!」 「それはよかった」 「でも、お父様たちと一緒に食べれないのは残念。ユーリもヴォルフもこのお菓子好きって言ってたから。……あっ、だからってコンラッドと一緒にいるのがいやってわけじゃないよ? コンラッドとおはなしできるのもうれしいもん」 グレタは己の発言に失言を感じたのか、あわてたように手を振るので、コンラートは「わかってるよ」と思わず笑ってしまう。 「今日は、グレタが来るってユーリもヴォルフラムもうれしそうだったから仕事の予定を変更して午後には仕事を終えてきみのもとに真っ先にくるから」 告げるとグレタは微笑みを浮かべて焼き菓子を頬張る。 「お友達のことやさいきんあったおもしろいはなしいっぱいあるから楽しみだなあ。もちろん、コンラッドも一緒でしょ?」 グレタのことばにコンラートは首を横に振った。 「いや、俺は午後からヴォルフラムと交代で兵の指南だから」 「そうなんだ……」 「ごめんね」 残念そうな表情を隠さないグレタの頭を撫でつけると、グレタは紅茶を口に運びながらぽつりと小さく呟いた。 「……ねえ、ユーリとコンラートけんかしたの?」 「けんか?」 「だってさいきん一緒にいないじゃない。このまえ遊びにきたときもおかしかった」 「それは、ふたりとも忙しいからだよ。けんかなんてしていないよ」 そう、けんかなどしてはいない。ただ、距離を置いているだけだ。自分のゲームに彼を巻きこんで遊んでいるだけで、けんかなどではない。 コンラートが「だから気にしないで」と言うとグレタは「それならいいけど……」と未だ不安そうに答えた。 「でも、ユーリ変だよ。どこがっていうのはグレタにもよくわからないけど……あ、でもさっきユーリにちょっとだけ会うことができたとき花の匂いがしたの。甘い香り。ユーリまえまで香水とかしなかったのに。だからかな、雰囲気が大人っぽくなった気がする」 「……そう」 知らなかった。彼が香水をつけているなんて。以前、香水などをつけるのを好まないと言っていたはずなのに。それに、大人っぽくなったということばが引っかかる。……一度自分で確認しておきたい。なんとなく、胸に嫌な予感がするのだ。 コンラートが思考を巡らせていると、グレタはまた甘い焼き菓子を摘まみながら尋ねる。 「でもどんなユーリもグレタは大好き! 自慢のお父様だもん! コンラートもユーリが大好きだよね?」 おそらく、けんかをしていないと言われていても不安が彼女の胸にはあるのだろう。確認するように、コンラートの答えを待っている。 「もちろん」 コンラートは答える。 「ユーリのこと大好きだよ」 上辺だけの笑顔で。 |