キラキラ、ひかる。

「なあ、どこに連れてってくれるの?」
「秘密、です。でも、あと少しで着きますから」
 さっきからそればっかりだ。
 ユーリは、むっと唇を尖らせる。彼のことだから、きっと楽しいデートプランでも考えているのかもしれないが、元より好奇心旺盛なユーリは隠しごとをされると気になってどうしようもなくなるのだ。大学を後にして、二駅電車を乗り継いだ街は、ユーリには少し居心地の悪い場所だ。高級感が漂っているというか、全体的におしゃれでコンラッドのようにどこか気品さがある。
 コンラッドは、グレーのVネックにトラベルボタンがひとつついたショート丈のジャケットにデニムのパンツ。と、どこにでもあるような大学生ファッションを綺麗に着こなしていてこの街の雰囲気によく似合う。自分もまた、童顔でよく高校生と間違われるためにファッションには気を使い、濃いグレーと黒の薄手七分丈の長そでにドレープのある淡いグレーの服と好きなカーゴパンツを着用しているが、それでもどこか肩身が狭い。彼は、四年生で、自分は一年生。講義の終わる時間もまばらになるからそんな小さなことで悩んで、せっかくのデートを憂鬱な気分で過ごしたくはないとは思うが、どうしたって、コンラッドと釣り合うのか不安になってしまう。家が近所ということもあり幼いころから彼とよく遊びに行った延長線で付き合ってくれてしまったのかもしれない。
 まあ、こんなことをコンラッドに言えば、怒られるのは目に見えているので口にはしないが。
 いまや、日本は同性結婚、カップルは当たり前として世間にも受け止められてはいるが、男同士。このさきもずっと一緒にいられるか、正直ユーリは不安に思っている。おそらく、好奇心旺盛だと自負している部分はあるものの、根本的にユーリはコンラッド、恋人に対して隠しごとをされるのは嫌なのだ。小さなことであっても、いつかは、自分に飽きて、心変わりする……なんて、昼ドラの見過ぎかもしれないが。
「……リ? ユーリ?」
「あ、ごめん! 少しぼうっとしてた」
「なんだか顔色が優れないですね。体調が優れないようだったら、また今度にしよう」
 心配そうにコンラッドがユーリの髪を撫ぜる。昔から変わらない彼の癖だ。気分が落ち込んだときや、体調が優れないとき、コンラッドはこうして頭を撫でてくれる。そうされると不思議なことに、安堵する。ユーリは、横に首を振った。
「ううん、大丈夫」
「本当に?」
「コンラッドってば、本当に過保護だなあ。ちょっと考えごとしてただけだよ。だんだん講義の内容が難しくなって不安になっただけだから。ほら、どこにおれを連れて行ってくれるの?」
 無理やり笑顔を作ってみたものの、やはり笑みに違和感を感じるのか、コンラッドは眉根を顰めたが、ユーリの髪から手を離すとそのまま、向かいの店を指した。
「宝石店?」
 しかも、ブランド店だ。ショーウィンドウにはきらきらと輝くアクセサリーが展示されている。そういえば、以前腕にはめていた時計が壊れたと言っていたから新しいの購入すると言っていた気がする。ユーリは、店に圧倒されながらも彼につられるように店内へと足を踏み入れた。
 やっぱり、自分は場違いな気がする。
 店のスタッフと話す彼の姿を、横目でみながらカウンターから少し距離のある待合い椅子で座っていると、コンラッドに手まねきをされる。すると、営業スマイルを浮かべた綺麗なお姉さんの言葉と両手に持つ品にユーリは思わず声を上げた。
「こちらが、オーダーメイドされたペアリングになります」
「ペアリング!? だれとだれの」
「もちろん。ユーリと俺のに決まってるじゃないですか。あ、サイズを確認したいので嵌めてもいいですか」
 スタッフが頷くと、コンラッドは指輪をユーリの右手の薬指に通した。サイズはぴったりだ。
「いまはまだ、あなたを支えるほどの力をちゃんと持っていないから、右手の薬指に。俺が一人前の男になったら、左の薬指に嵌めてくれませんか?」
 まだ、事情も飲み込めていないし、店員さんがいるというのに、この男は何を言っているのだろう。そして、こんな場所で目頭を熱くしている自分も大概におかしい。
「今日は俺がユーリに告白した日なんです。ねえ、あなたが俺のものだという証拠を買ってもいい? プレゼントしてもいいかな」
「オーダーメイドまでしてるくせに、いまさら断るなんて店員さんに悪いだろ」
 声が微かに震えた。コンラッドの付き合いに不安になった自分が申し訳ない。そして、たまらなく愛してくれていることが嬉しい。
「じゃあ、これ。お願いします」と、コンラッドがスタッフに購入を告げて、少しの間ふたりきりになった瞬間。ユーリは彼の袖を引き、耳元で囁いた。
「コンラッドが大好き。これからも一緒にいてね」
 途端に彼が自分と同じくらい泣きそうな顔で、それでいて幸せそうな笑顔を浮かべた。
 
 その日、購入したペアリングはいま、お互いの左手の薬指できらきらと輝いている。

END

2012/5/4 cnyプチオンリーにてペーパーラリーで書きました。cnyで大学生パロ。
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