はらぺこらいおんと噂話
特に問題もなく、一日が終わろうとしている。
鞄に教材を詰めていると、あちらこちらから放課後独特のテンションの高さがちらほらと見える。ユーリが忘れ物がないかと机のなかを覗いていると隣から女子たちの話が聞こえた。
「知ってる? 無意識にね、座ったときに足を組む女の子ってエスなんだって!」
「えー知らなかった! 私いつも足組んでるよー!」
そんな他愛のない話を特別集中して聞いていたわけじゃなかった。 ふうん、そうなんだ。それって本当なの? と少しだけ疑問に思っただけで。
* * *
「お帰りなさい、陛下」
「陛下って言うな、名付け親!」
「すみません。つい癖で、ユーリ」
その帰り、ユーリはスタツアをした。自宅に帰って一分も経たずに。冬には特に欠かせないうがい手洗いを洗面所で行おうとして蛇口を捻ったときに引き込まれたのだ。幸い今回現れたところはコンラッドの部屋の浴室だった。この寒いなか、中庭の噴水が到着地点だったらと思うとぞっとする。
眞魔国に着いたのが真夜中で本当によかったとこの日は感謝した。夜でなければ、湯なんて張ってなかったかもしれない。
体を温めてから、いらしてくださいというコンラッドの言葉に甘えて、体の芯まで温めてから浴室を後にすると、机に向かって何やら作業をしているコンラッドがいた。書類でもまとめているのだろうか。
作業の邪魔をしないように音を立てないようにしたつもりだったのだが、コンラッドには意味はなさなかったらしい。すぐに椅子ごとこちらを向いた。
「髪、拭きましょうね」
にっこり笑う彼にユーリは一瞬、足が立ち止まった。それから頬が赤くなったのが自分でもわかる。
(……コンラッド、足、組んでる)
いや、言われてみればいつも組んでいたような気がするし、あの話は女の子限定なのだから関係ないことなのに。と頭で分かっているはずなのに、胸が無性にどきどきしてしまうのだ。
コンラッドの方もユーリの様子が少しおかしいことに気がついたのか、小首を傾げている。
「どうかしましたか?」
「い、いやなんでもない、デス」
「なんでもないことはないでしょう? そんなに目を泳がせて」
「う、お……っ」
おそるおそる近づいた体はいとも容易くコンラッドの腕力によって持ち上げられてユーリは抵抗する暇もなく彼の膝の上に乗っかってしまった。膝に乗るときには足は流石に足は組まれていなかったものの、訝しげな目で見つめられるとユーリもなんだか後ろめたい気持ちが募ってしまい等々、そのことについて口を開いてしまった。
「く、クラスの女子がさ足を組むひと、エスだとかなんとか言ってて……っ! もちろん、それは女性限定らしいんだけど、あの、その……っ」
言えば言うほどいたたまれなくなってくる。
頭をタオルで拭かれているからとりあえずは情けない顔になっている自分の表情は見られていないはずだか、そんなの意味などあるはずもなく、コンラッドはユーリの髪を丁寧に拭きながら喉を鳴らして笑っていた。
「ああ、それで先ほど動揺したんですね。俺が足を組んでいたから」
「んっ……」
「優しい俺より、強引な俺の方がお好みですか?」
耳元で低く甘い声で囁かれて腰がじぃんと震えた。しかも、あろうことかそれだけではなく耳朶をしゃぶり、耳壁にはキスをする始末だ。普段の彼とは違う雰囲気に思わずどきどきしてしまう。
「コンラッド、やめ、て……っ」
「どきどきします?」
膝から降りようとしても力強いコンラッドの腕からは逃れることも出来ず、彼はそんなユーリの行動を楽しそうに一層密着してくる。しまいには背けていた顔を手で捕られてしまった。
「可愛らしい顔をしちゃって」
「うーるーさーい!」
「もう、髪も乾きましたよ。ねえ、ユーリ。俺が鬼畜かどうか、ご自分でお試しになってはいかがです?」
言うが早いか、コンラッドはユーリの足に手を差し入れると横抱きにする。いわゆるお姫様だっこだ。
「暴れないでくださいね。暴れると酷くしますよ」
なにをどう酷くされるのか。問うのも怖かったし、知るのも怖かったので、ユーリは赤面状態のまま彼の首に腕を巻きつけた。彼はいつだって優しくて、鬼畜だ。足を組んでいようがなかろうがベッドのなかではとくに。
だからユーリは一言だけ、はらぺこなライオンにお願いをした。
優しくしてね?
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続編にテキスト/はらぺこらいおんは笑う。
甘甘なコンユ