とりきりあなたの映画を好きな映画をみる。面白くないから早く帰ってきてよ

 恋人は大学生。自分は彼の恋人で忠実な犬。
 日本に在住して随分と経つ。ネット社会は引きこもりの自分に大きな味方だ。外交も母親が(恋探しのため)率先して引き受けてくれるので、渡された書類の束に目を通し案を作成、パソコンの画面と向き合い話し合うだけでいい。
 これ以上ない自由を許されているのだから、頼まれた仕事は完璧にこなすようにしている。そうして、自分ルールを守り続けているうちに当初脱走して下がったコンラート・ウェラーの株がぐんと上がった。好感度に興味はないが、信頼度が高くなった分、自分の待遇はよりよく快適なものになったのだからあるに越したことはない。

 それに、ユーリにかける負担も少なくなるだろうから。

 正直、彼以外いらないと思う。けれども、金も地位もなにもない落ちこぼれの男がこれから先、ユーリを守ることなんて出来ない。

「……そろそろ、ちゃんと外交や会議にも参加するかな」

 人前に出るのはやはり気が進まないが、いつまでも家族や彼の優しさに甘えてはいけない。もう一歩前に出てみないと。こうして前向きに考えることができるようになったのもユーリのおかげだ。本当に彼には感謝しきれない。
 と、思考を巡らせているうちに最後の書類もまとめ終わり、区切りをつけるようにコーヒーを飲み干す。壁時計に目をやれば、まだお昼を過ぎたころであった。ユーリが帰ってくるにはまだ数時間はある。仕事を終えてなにもなくなったこのときが一番暇だ。

 なにをしようかと考え、とりあえず昼食の支度をすることにした。全くお腹は空いていないけれど。

 そうして、適当に作ったぺぺロンチーノを食したあと、ぼんやりとリビングに向かえばおそらく論文に使用する資料が山になってテーブルの隅に寄せられているのを目にする。色とりどりの付箋がいたるところに貼付されているのを横目に、束の上に一つのソフトが目に入った。

 ユーリが絶賛していた映画のDVDだ。

 一度彼と鑑賞して、面白かったのを思い出す。これならユーリが帰ってくるまで時間がつぶせるだろう。俺はケースを開けて、それを鑑賞することにした。

 再びコーヒーを淹れ直して、ソファーに座り物語を追う。だが、一向に物語にのめり込むことはできなかった。理由は簡単で、明解。

「……ユーリ、早く帰ってきてください」

 もう一歩先に歩めるのかと言えばまだまだ先かもしれない。ユーリの代わりとしては柔らかすぎるクッションに顔を埋めて抱きしめる。
  

(あなたの命令なら待てもお手もなんでも素直に聞きましょう。けれどね、わんわんわん。犬は寂しいと泣きたくなるんです。帰ってきたらいっぱいハグするつもりなので覚悟してくださいね。)



END

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小箱【拾って下さい】の番外編(にやり:お題お借りしました。)