夏が過ぎると段々と日が暮れるのが早くなり、夜がゆっくり長くなる。それを感じるのはとくに秋だ。いつのまにやら風が冷えて、みずみずしい葉が乾き、葉が擦れる度にかさかさと音を立てる。 今度こちらに帰還した際には愛しい彼になにをあげようか。 城内の巡回をしながら思考する。自然に口角が上がるのを感じ、左手でそれを覆う。幸い辺りには誰もいない。しかし、ヨザックから言わせてみればいてもいなくても同じことだと言われた。自覚がないと言えば、ヨザックをはじめ、そこに居合わせた兵が微笑していたのを思い出す。 今更、なのだろう。彼を思い出すだけで締まりのない顔になってしまうのは。 今頃地球ではなにをしているのだろうか。あのひとは冷える明け方に薄着でいたりしないだろうか。無邪気な彼のことだ。冷たい床を素足で歩いたりしているのだろう。それくらいで風邪をひかないことは理解しているつもりでも、考えるだけで落ち付かなくなってくる。我ながら恥ずかしい男だと思う。彼がいない生活は胸に小さな寂しさが落ちる。 「ユーリ、早く帰ってきてください」 寂しくて、恋しくて彼の名をぽつりと呟いた。 * * * それから数日後、ユーリが帰ってきた。 残念なことに彼が帰還したとき、自分は任務で城を空けていて戻ってきたときにはすっかり夜になっていた。 馬を飛ばしていたせいか全く寒さは感じていなかったが、まるで心のなかは冷え切っているように思えた。彼のぬくもりが欲しい。 無意識に早足になる自分を苦笑しながらもう寝ているだろう、ユーリの寝室へと赴く。……と、部屋のその通りにある自室がうっすら扉が空いているのが目に入る。自分は扉を空けて外出することはない。例え空いていても三日は城を開けていたのだ、誰から閉めてくれるはずだ。 と、なると答えはひとつしか思い浮かばない。 ユーリは自分の部屋にいるということだ。今回が特別なことじゃなかった。彼はたびたびこうして部屋に訪れてくれるのだ。ふつり、と小さく心が躍った。 彼に会いたい。恥ずかしいことにそのことだけを考えられず、崩れる表情を大人げなくも隠すことができなかった。 音を立てないよう、慎重に部屋に踏み入れれば床に散らばるものが目に入った。それは転々と落ちている。手にするとそれは彼の学ランであった。それから可愛らしくラッピングされたお菓子。普段の彼なら眠くても服を散らかしたりはしないのに……。なにか自分がいないときにあったのだろうか。 散乱した服とお菓子を手に取り、だんだんと小さな山をある寝台に近づく。寝たふりをしているようだが、自分にはわかる。彼の服や菓子を全て腕に抱えたまま、声をかけた。 「……ユーリ、起きているのでしょう?」 顔まで覆う布団をゆっくり剥ごうとすれば、それよりも先にばっと彼の手が出てきて自分の目を覆う。なにも見えない。しかし、くすくすと悪戯を楽しむ声が耳を擽った。 「おかえり、コンラッド! お仕事お疲れ様」 目隠しをされたままで労いの言葉をかけられ少し戸惑うものの、あまりにユーリが楽しそうなので、そのままに「ありがとうございます」と答えた。一体これはなんなのだろう。抱きつくことも敵わず好きなようにさせていると彼は問う。 「床に落ちていたやつちゃんと、全部拾ったんだね。あのさ……今日はなんの日か覚えている?」 「今日、ですか?」 好奇心の隠せないユーリの声音に思考を巡らせる。だがすぐにはぴんとくるものがない。 「わかんない? ヒントはお菓子。それから地球では十月の末」 「ああ! ハロウィーンですか」 「あったりー! さすがコンラッド。さて、ここからが本題です。手は外すけど、目を開けちゃだめだよ?」 頷けば、ゆっくり手が外されそのまま手は俺の口元を覆った。「ゆっくり目を開けて?」耳元で囁く声音に背中がふるりと震える。そして、目に映る光景に目を見張った。 「……っ!」 自分のシャツを一枚を羽織ったままのユーリがそこにいた。あひるさん座りをしているため、艶やかなふとももが露わになり裾の端から下着の紐がたよりなく見え隠れしているのだ。そしてなによりも誘うような仕草をしていたユーリの頬が羞恥にほんの少し赤らめている表情が生唾を飲んだ。 「Trick or Treat! お菓子くれなきゃ、悪戯しちゃうぞ?」 腕にはたくさんのお菓子がある。きっと彼は任務から帰ってきた自分のことを労い、一応考慮してくれたのだろう。悪戯するか、ユーリに拾ったお菓子を渡して一緒にこのまま寝てしまうか。まあ、きっとユーリにも俺の答えなんてわかっていただろうけれど。 「……返事は?」 口元を覆っていた手が外される。 「たっぷり悪戯してください、可愛い子……」 腕にもった服もお菓子も再び床へ投げ捨てて俺は悪戯小悪魔の唇を貪りシーツに縫いとめた。 彼の唇はキャンディーにチョコレート、クッキー、キャラメルどんなお菓子よりも甘い甘い味がした。
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