あなたに会いに行こう3

Y+β(C+M)

 大まかな文化祭のスケジュールを確認すると有利たちは先輩たちとテント張りをすることとなった。
「……なあ、渋谷」
「なんだよ?」
 やっぱり鉄筋でも木材でもこう肩に担ぐと男らしいく見えて格好いいよなあ、なんてはにかみ笑う友人に木野は額に手を当てたい気分に駆られた。
 有利があれほど唸っていたチャイナ服を気にしなくなったのはいい。
 だけどさ、だけどね!
 少しはチャイナ服を着ていることを考慮した行動をしてくれよ!と、木野は思った。
鉄筋を有利曰く肩に担いで運搬することにより、鉄筋が載っている肩に布が寄ってしまい、男性とは思えない柳腰がくっきりと美しいラインを映していた。普段の学ランを着用していても、可愛いと定評のある有利(本人は全く気がついていないが)……しかも、本人の知らないところで学校公認(首謀者は多分七宮か腐のつく女子だ)のファンクラブまである。体育の授業、それと着替え最中でさえ有利の生足や腹には熱烈な視線が注がれている。そのとろりとした滑らかな肌は生粋であろう男子でさえも誘惑されるほどだ。
 それが今や、出血大サービスと言わんばかりの格好。
 お腹は見えてないにしろ、その分足と括れが男を誘惑する。
 ああ、ほら先輩たちがみてるぞ、渋谷。
 白いニーハイと健康的な白さをした有利の太ももは思わずそこに顔を埋めたくなってしまう。友人に対して恋愛感情は持っていないが有利に熱烈な視線を送っている先輩方の気持ちを代弁すれば、そんな感じだろう、と木野は思った。
「……まあ、厄介なことにならなきゃ別にいいけど」
 文化祭につきもの。ヤンキーと変態。幾分礼儀の正しいヤンキーは絡んでも楽しいものはあるが、妙にそのノリを踏みはずして、悪いお手本に載ってそうなヤンキーが少なからずいる。立入禁止区内に入ったり、冷やかしたり。
 どこまでもまっすぐで、熱血。それでいて優しい有利が絡まれている現場を見たらあと先考えないで、その場に突っ込んでいくのがオチだ。チャイナ服の魅力も借りてもしかしたら有利本人が襲われるかもしれない。……と、なると目の届く範囲にいて欲しいな。
「なに、ぶつぶつ言ってんの、木野? 接客の練習?」
 ぼーっとしながらテントを張る場所に来ると有利は肩に担いでいた鉄筋を降ろし、木野に問う。
「いや、別に……っておいっ! 渋谷!」
「んえ、なんだよ?」
 きょとんとした顔をでこちらを見る有利は思わず頬が揺るんでしまいそうに可愛いが、それ以上に表情が崩れてしまう状況に木野は思わず声を上げた。
「その格好で、背伸びすんなー!」
 見えそで、見えないチラリズム発生。
 周囲にいる人の鼻の下が尋常じゃないほど伸びている。
「大丈夫、大丈夫! これぐらい届くから」
 心配ご無用と笑顔向ける有利に今度こそ木野は頭を抱えたくなった。無自覚の天然め。本当に目の届く範囲に渋谷を置こう。
 木野のお母さんレベルが1、上がった。
「中腰もやめーいっ!」
 パンツみえるから!

■ □ ■

 一方そのこと。とある高級マンションの浴室から妙なことが起きた。
 水が張っている静かな水面が突然揺らめき、まるで火山が噴火する直前のようにぼこぼこと水のうねらせてゆく。浴槽いっぱいに張った水は当然、溢れてタイルを勢いよく濡らした。

 ざぶんっ!

 ひと際大きな波音がしたかと思うと二つの人型が現れた。

「……ぷはっ! いやーよかった、湯を張っておいて。無事に着いたみたいだよ。ウェラー卿」
 水に沈んだ眼鏡を拾い、濡れた己の服で眼鏡についた水分を拭うともうひとりに声をかけた。
「そのようですね。本当に有難うございます、猊下」
「いやいや、それほどでもあるけど。まあ、とりあえず上がろう。話しはそれからだ。あ、こっちでは僕のことは猊下とは呼ばないように。そうだな『村田』でよろしく」
「はい」
 村田はそうそうに浴室から上がり扉を開けると、タオルを取りもう一枚を水も滴る男、の名が似合いそうな男に渡す。それから、これから起こるであろう楽しいイベントに口角を上げた。
 さあ、渋谷も皆もどんな顔するかな……?
 考えただけでもわくわくする。
 あと二時間ほどで始まる有利の文化祭に村田は思いをはせていた。




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