オレの友人の村田健はちょっと頭がおかしいらしい。友達に言うのもなんだけど、可笑しいんだ。特に頭のなかが。勿論、オレよりも頭がいいよ? だって全国二位だもん。でもね、いっつもにやにやにやにやしてる。つめたあい眼で。あ、オレに向かってそんなにやにや笑ってないよ。彼は頭痛とお友達らしい。みんなでご飯を食べたあとはいつも錠剤をいくつも飲んでる。まるでスナック菓子みたいに。たあくさんの量の錠剤をごくごくごく。水で流しこんでる。そんな村田を知ってるはオレとギーゼラ。村田が言ったんだ。『誰にもいわないでね』って。別にさ、断る理由もないからオレはうんって答えたよ。だって友達だもん。秘密の一つや二つ聞いて受け入れてあげなきゃ。
 ああ、少し話が逸れちゃった! で、村田はいつもつめたあい眼で笑ってるんだ。どこか不機嫌で。オレには到底浮かべられない笑顔をしてる。なんだっけ? 冷笑ってやつ? うん、よく分からないけどそんな感じ。まあ、別にいいけどね。オレはそんな顔を向けないから。
 村田は頭が可笑しいんだ。罪人を罪を最終的に下すのは村田の役目。村田自らその役を買って出た。あのときの笑顔と言ったらもう、ね。【玩具を与えられた子供】みたいな。罪人を裁くときだけは、本当に心のそこからにこにこしてる。にやにやじゃないよ。にこにこ、可愛い笑顔でさ。あの笑顔なら、みんな一瞬で惚れちゃうって感じ。いつもあんな笑顔を浮かべればいいのになあ、って思う。……絶対無理だと思うけど。
 特に村田の機嫌がいいのは死刑を執行してるときなんだって。いつか兵士さんが言ってたなあ。その兵士さんもオレにこのこと話たのが見つかっちゃったらしくて、もうこの世にはいないらしい。村田の情報網は怖いよね。こっちの世界じゃ、インターネットなんて普及してないのにさ。それに村田曰く自分は引きこもりの中二病なんだって。中二病? ってやつはよく分からないけど、ひきこもりは合ってるよね。あいつ、いつも、眞王廟籠ってるし(笑)
 ……でもなあ。オレもひとのこと言えないんだよね。頭可笑しいってところは。だあって、わかんないんだもん。【悲しい】の意味。そりゃあ、悲しいってときはあるよ。ロードワークが雨で中止になったときとか、夕食で嫌いな食べ物が出てきたとき。グウェンダルに怒られて、お菓子を没収されたときはすごおく悲しい気持ちになるんだ。思わず泣いちゃいそうになる。そんなときはいつもコンラッドが頭を撫でてくれるから、泣かないんだけど。だめだね、コンラッドがいなくちゃ泣いちゃう。
 オレのなかで【悲しい】ってそういうものだと思ってた。でも、違うんだって! 大賢者村田様が教えてくれた。
「ねえ、渋谷あ。ひとが死んだら、【怖い】とか【悲しい】って思ううう?」
「うん? わかんない」
「だよねえ。そうだと思ったよお。渋谷あ。それがねえ、本当の【悲しい】なんだよお?」
「ふうん?」
 ふたりでエーフェが作った焼き菓子を作ってくれた、おいしいおいしいお菓子食べながらのお茶会でそんな話しをした。それから始まったんだ。【悲しい気持ちの習得】と【恐怖の習得】。
 コンラッドが任務に赴いているときに、眞王廟にお泊りにして、ひっそり練習してるんだ。
 でもなあ。
 一向にそれらが習得できないんだよねえ。オレが馬鹿だからかなあって村田に言うと、すっごい気分よさそうにいつも村田は「違うよお」って答えるんだ。その笑顔はにやにやしててちょっと気持ちわるい。恍惚に笑んでるっていうか……そのときの村田の顔は苦手。自分で言うのも愛でられてる感じ。オレは可愛いんだってさ!
 オレがひとを殺しても! (笑)
 ひとを殺しちゃうオレも相当頭可笑しいかもしれないけどさ、やっぱりね。村田も可笑しいよね! でも、そんなあいつだからなんでも相談できるんだけど。村田には本当に感謝してるよ、ほんとに。
 だけど、それでも。ふたつの感情は習得できなくて。あーあ。本当に困るなあ……。オレ、嘘をつくのは結構得意なんだよ? 特に、嘘泣きは得意! やっぱりさ、こっちにいて王様業をやってる限り戦争はあるし必然的に死人は出る。そんなときに涙が出ないのはちょっとね。みいんな大好きだけど、どうしてかな。
 ああ、終わっちゃったあ。みたいな気持ちしか湧いてこなくて。基本的さ、オレのなかだとみいんな平等なの。いのちの尊さは一緒。虫も動物も人も物も。だから、同じくらいの寂しさしか湧いてこないというか、うん。でも、日ごろお世話になってるひとはやっぱり贔屓しちゃうのは大目にみてね。(苦笑)
 別にさあ、このふたつの感情がないからって困ることはないんだけどね。
 ぜえったいに欲しいのっ!
 だって、コンラッドが持ってる感情だもんっ!
 コンラッドは大きな戦争で、たあくさんのお友達を失くしたんだって。そのときの悲しそうな顔は見てるこっちまで切ない気持ちさせるんだあ。でも、オレにはその気持ちがわかんないの。馬鹿だなあ、オレ。……ってさ、村田に相談したらさ、なんて言ったと思う?
「ううん。なんで、いっぱい練習したのに、どうしてわかんないんだろお?」
「どうしてだろうねえ」
「ううん……」
「ねえ、渋谷あ」
「うん?」
「僕のこと好きい?」
「当たり前だろ!」
「なら、いいよ」
「? 」
僕のこと殺していいよお
 ね、村田頭可笑しいだろ? 殺すって意味わかってんのかな。頭が良いのに。とむしゃむしゃ、おいしいおいしい焼き菓子を食べながら、じいっとあいつの顔を見れば、まあた、村田はにやにや笑いながら言ったんだ。
「だって、ウェラー卿はお友達を亡くしてそんな気持ちになったんだろう? なら、君もお友達を亡くしてみればそんな気持ちになれるかもしれないよお?」
 それもそうかも。そう思って、オレはその考えにごくん、とおいしいおいしい焼き菓子を飲み込んでから頷いた。

 で も さ !

「ねえ、村田あ。ちっとも悲しくないんだけどお?」
「……」
 応答なし。
「ねーえ?」
「……」
 応答なし。
「なあに、幸せそうな顔で死んでるんだよ。気持ち悪いなあ」
「……」
 応答なし。
「でも付き合ってくれてありがとう。村田大好きだよお」
「……」
 応答なし(笑)
 
 村田健を殺した回数27回目(笑笑)
 大丈夫! すぐに魔術で蘇生させるからさ。村田は生き返るよ。でもさあ、友達を喪った感情よりも、殺した感情を先に手にいれるってどう思う? 
 とりあえず、友達を殺すって気分悪いよね。
 
 てか、殺して生き返るとか。

「どこのマジックショーだよ!(爆笑)」


END
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