コンラッドと同居している大きなマンションのドアを開ける。
「ただいまー!」
「お帰り、ユーリ」
靴を脱ぐために下を向いていると、出迎えに来たのかこっちに向かう足音。脱ぎ終え、顔を上げてオレは驚いた。
「……コンラッド、どうしたの? いまからどこか出かけるの?」
そこには白い正装に身を包んだコンラッドの姿。バックのオーラはまるで漫画のようにキラキラとしたものが見える。
「いいえ、出かけませんよ。前にユーリがこの白いスーツが格好良いと誉めてくれたでしょう?」
くすくすと笑いながらコンラッドはオレの肩にかけている鞄を手にとり中に誘う。
「? うん」
で、それがどういう経緯で白い正装に繋がるんだろう? わからなくて聞くもコンラッドは答えてくれなかった。オレの手を引いて、リビングへと連れて行く。
「わっ……すご……」
オレは再び目を見張った。
テーブルには、美味しそうな料理がそこかしこに並べられていてまるでどこかの高級料理店のようだった。
「ね、これどうし……」
今日はなにか特別な日がだっただろうか。
聞こうとしてコンラッドの袖を引っ張ったら、オレの唇に人差し指を当てて話しを遮る。なんだか、これ以上聞いてはいけない気がして、オレは再び手を引かれてほとんどされるがままの状態でテーブルまで招かれる。料理とお洒落に演出したロウソクが輝くテーブルへ。椅子をひかれて座るように促される。
オレが座るのを確認すると向かいにコンラッドも座って、柔らかく笑う。
…本当になんだろう?
考えても考えても答えは出てこなくてもやもやする。
ただ、向かいに座るコンラッドがいつもとは違う雰囲気でどきどきして勝手に鼓動が早くなる。そんなオレを少し楽しそうに目を細めながらコンラッドはシャンパンを空けてそれぞれのグラスに注ぐ。
トクトクと注がれる音を聞きながら居心地が悪いようなこそばゆいような感覚にオレはどこに目をやればいいのかわからない。
ちら、視線をコンラッドに移せばようやくコンラッドは口を開いた。
「……今年でユーリは二十歳になるんですね」
それはオレに言っているのではなくて自分に言い聞かせるようなものに聞こえてオレは口を挟めなかった。
「あまり外に出るのが好きじゃなくて、なるだけ外に出ない生活が出来るようにこのマンションを買って……だけど、思ったより生活するものに必要なものは少なくて」
コンラッドの住むマンションに初めてきたときは本当になにもなかった。
必要最低限のものだけが置かれていて、シンプルというよりもそっけない感じがあったなとコンラッドに言葉で思い出す。
「大学は本当に楽しかった。ショーリとヨザックとオレでよくつるんで……よくユーリの話を聞いたんだ。ショーリが大事にしている弟はどんな子なんだろうって」
「勝利……」
呆れて思わず眉間に皺が寄りそうになる。……今度会ったら、絶対ギャルゲー一個破壊してやるんだから。
「よくショーリには大学時代俺とヨザックはお世話になってね、この話は前にもしたと思うけど……本当に色々世話になったんだ。だから、ショーリからユーリのことを聞いたときに何か恩を返せればと思って同居することを提案したんだ」
それからが予想外だったんだけど、と笑って話を続ける。
「まさか、ショーリの弟はこんなに外見も性格も可愛らしい子だなんて思いもしなかった」
「かわいくなんて……」
なんだか恥ずかしくなってコンラッドの話を遮ろうとするが、コンラッドは語ることをやめない。
「……一緒に暮らすことになって、外に出る楽しさや、誰かと食事を摂るご飯の美味しさ。毎日の挨拶の意味も改めて知ったし、人の恋しさも寂しさも…本当に色々知ったんだ。全部ユーリのおかげだ」
そこまで言うと言葉を切って、手を伸ばしてのオレの両手を温かく握る。
その顔はやけに真剣で困惑してしまう。
「こ、コンラッド……」
「今日はね、ユーリが初めてこの家に来た日なんだよ」
両手で握る手を片方を外して、スーツの胸ポケットから四角い箱を出す。
それから手を握りしめていたオレの手の平を乗せた。
一年前の今日、きみに恋しました
四角い箱を開く。そこには、シルバーに光るリングと紙が。
「ショーリに殴られる覚悟できているよ」
畳まれた紙を開けば、婚姻届け。
「これ、は……」
本当に今日は早すぎる展開に頭がついていかない。
でも、自然に視界は揺らいだ。
……オレは、泣いてるのか?
「結婚してくれませんか?」
頬に涙が伝う。
そんなの答えなんて決まってるじゃんか。
「…………はいっ!」
きっと不細工な泣き笑い。
それでもオレは幸せで涙も笑顔も止まらなかった。
ユーリ視点。次男プロポーズ大作戦。