「ふー……」

 やっと仕事が終了。
 眼鏡を外し、パソコンの電源を切る。

(─……疲れた)

 少し目を押さえたあとに、俺は部屋を出た。見ているだけで癒される可愛い可愛いあの子に会うために。
 ドアを開けると香ばしい香。なんだろう。静かに階段を降りると少し焦った声が聞こえる。

「あちゃー、久々に失敗したかも……」
「何を失敗したんですか、ユーリ?」
「わっ!? コンラッドいつのまに」

 びくっとからだをすくませてユーリは後ろを振り向く。
 ワイシャツの上にターコイズの薄いニット生地を着て、下はジーンズ。その上に淡い色が綺麗なエプロンを着ていてなんとも可愛い。
 思わず顔が綻んでしまう。そんな俺とは反対に、ユーリは少し罰悪そうな顔をみせた。それから少し言いよどんでから、おずおずと口を開く。

「最近コンラッド、仕事で忙しいでしょ? あまり休憩とか取ってなさそうだったから疲れてるだろうなって思って。仕事が終わったら、甘いものを一緒に食べようかなって……」

 申し訳なく思う気持ちと照れる気持ちが合わさる表情をされるとなんとも言えない愛おしさが胸の中に渦巻く。正直言ってここがキッチンであろうが押し倒したくなる。

「……でも、作ったら少し焦げちゃって、ホラ」

 ユーリは体を少しずらしてそれを俺に見せる。近づき白い皿にのるホールの焼きたてアップルパイが。

「良く出来てますよ?」

 綺麗に焦げ目がついていて、少し形の崩れ溶けた林檎が食欲をそそる。
 一体どこが失敗したのだろうか。自分の顎に手を添えて首を傾げる。

「……本当は、もっとサクサクに出来る予定だったんだけど下の生地が少し底についちゃって…」

 悔しいのか、ユーリは小さくため息をついた。
 そんな顔しなくてもいいのに……。俺はキッチンの引き出しから小さなデザート用のフォークを取り出し、プスリ、とパイをさした。

「あ」

 ユーリの唖然とした声。それを笑顔でスルーしてもぐもぐとパイを咀嚼した。そんな俺を彼は不安そうな表情で見つめる。とても可愛い。まるで、不安そうに尻尾を揺らしてる猫を連想させた。俺はパイを飲み込むと素直に感想を口にする。

「とっても、美味しいですよ。確かにサクサク感はありませんでしたが、生地がしっとりしていて俺は好きですね」
「……本当?」

 きょと、とした顔でこちらを上目使いにこちらを窺う。ああ、なんて可愛い。

「俺が、貴方に嘘ついたことがありましたか?」
「……ないっ!」

 それはそれは嬉しそうな声でそれを否定するユーリに、俺はすぐにトレイを用意しその上に小皿と食べて少しかけたパイを載せた。

「では、もう三時になるしパイ食べましょうか?」

 トレイを持ちそのまま素敵なデザート用意してくれた愛しい子に掠めるようなキスをする。

「っ!」

 顔を真っ赤にして、両手で唇をさっと隠くす。それが、またあまりに可愛くて意地悪をしたくなる。

「お味はいかがです?」

 可愛いく睨んで、拗ねたようにユーリは答えた。

「……少し焦げた味がした!」







キスは焦げたパイの味がした




 嘘吐きな可愛い子。
 どこも焦げてないのにね


すでに付き合ってる前提、です…


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