かわいい


 腹の奥のほうに熱いものを感じる。その熱はコンラッドがなかで中出しした証拠だ。
 有利は思わず舌うちをした。
「……なかでイくの止めろって言っただろ」
「すみません。つい、くせで」
「ふざけんなよ」
 有利の悪態も構わず、コンラッドは何度か腰を揺すり、すべて出し切ると満足そうな笑みを浮かべた。
「とても気持ちがよかったです。ねえ、もう一回しませんか? 明日はおやすみでしょう」
「却下。おれはあんたと違って若くないから、もう寝たい。っていうか、明日腹壊したらどうしてくれるつもりなの」
「俺があとで責任もって精液を綺麗に掻きだしてあげますよ。つぎはちゃんとゴムもしますし、間違ってあなたが妊娠しないように避妊もちゃんとします」
「……早くおれのなかから出て行け」
「そんな怖い顔しないでくださいよ」
 かわいいなあ。コンラッドは愛おしそうに有利の頬に唇を寄せるとキスをする。
 なにがかわいいのかまったくわからない。そりゃ、十年も前の自分であったらさぞかわいかったであろう。
「もうおれは三十七だぞ。可愛いわけないじゃん。朝になったらひげも生えるおっさんだ。顔も肉体もずっとあんたのほうが若いのに。……こんなおっさんになった自分のどこがかわいいのか」
 バードキスを続けるコンラッドの顔を手で押さえると有利は呆れたように「あんたって本当に趣味が悪い」とぼやいた。
 一時は魔族寿命に自分もあったと思っていたが、二十歳を過ぎてから有利の成長は順調に伸びてゆき、人間寿命であったことを知った。背も伸び、顔もだんだんと少年から青年、そして中年の顔となった。魔族であるコンラッドも年とともに顔や体格は変化をしてくが未だ彼は二十代後半で、若々しい。
 自分より老けたおっさんをどうしてかわいいと思えるのか。
「ユーリはおっさんになってもじゅうぶん、かわいいです」
「おっさん言うな」
「自分でおっさんって言ったのに?」
「自分が言うのと、ひとから聞くのは違うんだよ。もう、二回もしたんだ。いい加減寝よう。つかれた」
 有利が言うと、コンラッドは「まだ自分は一回しかイってませんよ」とこともなげに答えた。
 そりゃあ、あんたがイかなかったのがいけないんだろう。
 自分も二十代であれば、彼に付き合ってからだを動かしていただろうが、もう三十後半ともなるとからだが本当にきつい。
 本当にもう無理、と有利は否定の言葉を口にするがまるで自分には聞こえていませんと言うようにコンラッドは再び腰の動きを再開し、片手を有利の下肢へと運ぶと萎えたままの陰茎をゆっくりと上下に扱き始めた。
「ユーリもまだまだ若いですよ。こうして扱けば、ほら、また立ちあがってきた」
「……ものすごくゆっくり、たちあがってるけどな」
 陰茎が立ちあがる速度にまで老いを感じて有利は苦笑をもらした。
 近年のコンラッドは有利の目から見てまるで子供のようだ。自分が嫌だと言っても、こうして無理を通して甘えてくるのだ。
 全体的に生きている年数を数えれば、もう追いつくほどもできないくらいに彼のほうが年上なのに、見た目の年齢と同様にこれでは、年下が年上を食らっているようにしか見えない。彼はこんなにも甘えん坊であったであろうか。
「むかしのあんたなら、素直にわかりましたって言ってくれたのにな」
「ユーリがたっぷり甘やかした結果、俺はこんな人間になったんですよ」
「ひとのせいにするな」
「すみません」
 謝罪の言葉にまったくと言って気持ちが込められていない。
 本当に我儘になった男だ。
 有利は長い息を吐くと、目の前にいる男の首に腕を絡めた。萎えていた陰茎もいまでは完全に勃起してしまった。こうなってしまってはこの男に縋るしかない。まあ、無理やり菊口にくわえた男のものを抜いて風呂場で自慰しても構わないとは思うのだか、自分は彼に甘いのだ。かわいくて仕方がない。だから、こうして付き合ってしまうのだろう。
 室内に再び淫猥な音が響く。腰と尻がぶつかり合う音。荒い息。自分の声から漏れる女のような嬌声。内壁と白濁が混じり合う粘ついた水音。
 どれもこれも、もう何十年と聞いてきたが、耳に注がれるそれらの音は毎回自分の肢体を熱くさせ、興奮させる。
「……あと、何年こうしてあんたとセックスできるのかな」
 この調子でいくとおそらく自分はこのさきも魔族年齢で生きることはないだろう。順調に年をとっておっさんからおじさんになって、おじいちゃんと言う言葉が似合うようになり、顔もからだも皺だらけになって死んでいくに違いない。その間に自分はあと何回彼とセックスできるのか。
 彼の首に絡めた腕を背中へと移動させて、その広い背中に有利はわざと爪を立てる。この背中には自分がつけた爪痕がもう何重にもついてる。
 ……汚い、独占欲の証だ。
「あなたが望むだけ俺はあなたを抱きますよ。俺はどんなにあなたが年老いても抱きたいですから」
「本当かなあ」
「ええ、俺はあなたに嘘をつきませんから」
 そういう男の目は、こちらが目をそむけたくなるほど純粋で有利は思わず喘ぎ声を交えながら笑い声を立てた。
「……おれって愛されてるのな」
「自覚なかったんですか?」
「まさか。あるに決まってんだろ」
 内壁で肥大していく肉棒を腹に力を込めて絞めてみれば、コンラッドの顔が快感で卑猥に歪む。
 それをみるのが有利は楽しい。
 自分がそのような顔をしても、気持ちが悪いとしか思わないが、この男の目にはどのように映っているのだろう。それもかわいい、と表現してくれるのか。こんなに年をとっても。
「……なあ、コンラッド。おれが本当にかわいい?」
「ええ、かわいくてしかたありませんね」
 コンラッドは即答して、背中にまわしていた有利の手を解くとかわりに有利の両足を肩に担いで、より深くに肉棒をなかへと沈めた。まるで腹まで犯された快感を覚えて、有利はひときは高い嬌声をあげる。
「ほんと、あんたって、しゅみ、わるい、ね……っ」
「なにをおっしゃいますか。俺はとても趣味がいいし、面食いなんですよ」
 あ、あ、と意味をなさない母音が口から零れ出してそれ以上会話ができない。行き場の失った手は無意識にシーツを握りしめていた。だらしなく開いたままの口からは涎が零れていて自分は本当に汚い顔を見せているのだろう、彼に。
「かわいいですよ、かわいい。ユーリはとてもかわいい」
 そう言う彼の表情はとても優しい。その声や顔に自分は本当にコンラッドに愛されているのだろうな、と有利は思った。
 これからさきもずっと、この男はどんなに自分が年をとって醜い顔になろうとも「かわいい」と言うのだろう。
 本当に、趣味が悪いと思う。
「そろそろ、俺、限界かも……」
「おい、ゴムは?」
「ああ、わすれてました」
 有利の言葉で思い出したように、コンラッドは肩に両足を担いだまま、上半身を曲げて、ベッドサイドのチェストへと手をのばした。その手を有利は掴む。
「いいよ、なかでイけば」
「いいんですか?」
「そのかわりちゃんと腹下さないように掻きだしてくれな」
「もちろん」
 また、嬉しそうにコンラッドの目尻が下がる。その顔は、本当に青臭い二十代そのものだ。
「コンラッドってかわいい顔で笑うようになったよな」
「そういうのは、あなただけですよ。あなたも本当に趣味が悪いですね」
「言ってろ、ばか。おれは趣味がいいんだよ。面食いなの」
 さきほどの言葉をそっくりそのまま、目の前の男に返す。
 そうして、かわいいと繰り返すその言葉のなかにひとつの意味が見えてきたような気がした。
 コンラッドが息を詰めたその瞬間、また内壁が一瞬に広がってあつい熱を感じて、有利もまた彼の腹に向かって射精をした。荒い息だけが、室内に響く。
「……なあ、コンラッド」
「なんです?」
 コンラッドの萎えた肉棒が、ずるり、と体内から出ていく。
「かわいいって、愛してるとかそういうのも含まれてたんだな」
「なんだ、いまさらわかったんですか」
 呆れたようにコンラッドは笑う。
「あなたに向ける『かわいい』は、ほかのひとに向ける『かわいい』と違うんですよ」
 まっすぐな瞳がだんだんと近づいて有利の唇に触れる。その唇もコンラッドも有利はかわいいと思った。
「かわいいっていい言葉だな。愛してるって言葉より言いやすくて、やわらかい」
 かわいい、と言う彼の口癖がそのうち自分にもうつるような気がする。
「コンラッドって、百年以上年取ってるおじいちゃんだけどかわいいな」
「ユーリも、おっさんだけど、とてもかわいいですよ」
 いつか、自分は彼より確実に年をとって早くおじいちゃんと呼ばれるようになり、セックスができなくなるだろう。だけど、いまの関係はこれからも続くのだろう。セックスできないかわりに、人目もはばからずたくさん手を繋いでいるような気がする。
「おやすみ、コンラッド。もうおれ眠い。後始末よろしく」
「了解しました。ユーリ、今宵も素敵な夢を……」
 そのとき、いまのようにかわいいと言われる男でありたいと、かわいい男の胸に抱かれながら有利はゆっくりと瞼を閉じた。


END
おっさん受けユーリを想像したら予想以上に悶えてしまったので衝動に任せてえろえろです。コンユはおっさん受けもできる。すてきですね。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -