ケナイ先生


 先生はずるいと思うんです。
 オレがどんなに頑張って、彼を無中にさせようとしても無理なんだ。
 授業中だって、目が合うと微笑みかけてきてくれたりする。オレしか知らない蜂蜜みたいな甘い顔で。
 もうそれだけでだめだよね。顔、赤くなって授業に集中できないもん。
 だけどそれでも英語で満点とれるようになったのはウェラー先生のおかげだ。大の苦手だった英語の長文もすらすら読めるようになって、難しいリスニングも聞き取れるようになったし、英語も喋れるようになった。
 告白したあの日から、帰りは出来るだけ一緒に帰るようになり、先生を待っている間は補習と同じようにプリントを使いながらのお勉強。
 苦手なものが好きになるのは結構快感で。プリントの問題を集中して解いていくだけで一時間なんてあっと言う間だ。
 ……って言うのも本当だけど、もう一つ理由がある。いつか、オレ、ウェラー先生と海外旅行に行きたいんだ。先生の力を借りないで一緒に楽しめるようにぺらぺらと英会話を使いこなせるようになりたい。
 いつかこの夢が実現すればいいなと思う。
 その為オレはこっそりアルバイトでお金を貯めていたりする。
 卒業旅行とかで行けたらいいな。それを思うといつも頬が緩んでしまう。
「何を考えていたのですか?」
「え、」
「今、笑っていたでしょう?」
 ふに、とオレの右頬を柔らかく摘まむ。眼鏡越しに先生の目がはんなりと緩んで思わず、はわわと変な声が出た。
 なんなんだ、この先生は! すっごいフェロモン垂れ流しなんですけど!
「い、いや……英語が出来るようになってよかったなあ、と思いまして」
「本当に?」
「ほ、ほんとうに」
 楽しげに顔を覗きこむ先生の顔にぼわりと全身の血液が沸騰しそうになる。どうにも、この状況に我慢が出来なくて先生から目を逸らす。
 と。
「こら、ユーリ。顔を背けないで下さいよ」
 右頬を摘まんでいた先生の手がオレの顎にかかってクイっとオレの顔を持ち上げる。
「ちょ、ちょ、ちょっ!先生どこのお約束少女漫画をやるんですかー!」
 あまりに恥ずかしい先生の行動に、頭が爆発した。顎に手をかけるとか、うわわ、恥ずかしいってレベルじゃないぞ。コレ!
 不意打ち過ぎて死ぬかと思った。
 きらきら、王子様オーラとむんむんな色気を噴出させてる先生はオレの言ってる意味が分かんないのか、小首を傾げるから更に困る。
 やってることはかなり気障でべたべたに甘いのに、無意識にやるから、オレはもうお手上げだ。
 言ったじゃないか!
 オレは恋愛初心者なんだ!

もう勘弁してよ!

 いつになったらこの恋愛に慣れることが出来るんだ! 悔しい、悔しい! いっつもオレばっか、どきどきしてんの!
 先生は、オレの飲んだの間接キスするし、自然に肩とか寄せてくるし、授業中は笑いかけてくるから、叫びそうになるし、眼鏡外すとさらに格好いいし、不意打ちにち、ちゅうするし!
「こ、コンラッド!」
「なんですか?」
「あんたはイケナイ先生だ!」
「は?」
 オレだけこんな気持ちになるなんて絶対嫌だ!先生もどきどきしちゃえばいいんだ!
勇気を出して先生の唇に触れてみる。今は放課後、誰もいやしない。
 オレは結構負けず嫌いでどうしようもないくらいに独占欲が強いんだ。
 オレ以外にどきどきしないで下さいよ!って、言ったら貴方には敵わないなんて言って笑うんだ。
 ああ、もうその笑顔はやっぱり反則。
 こっちがかなわないや!



END





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ユーリside。無意識に惚気てる生徒と、故意にタラシを発動するイケナイ教師コンラッド。