い日の特権


 生徒と先生の枠を越えて晴れてユーリの恋人になった。恋人になれたらいいなとは思っていたが、まさかなれるとは。
 諦めなくてよかったな、と保健室で告白し柔らかな唇に触れて思った。

* * *

 橙色の空も陰り空は滅紫色をしていた。けれど、学校はまだいくつかの教室に明かりがついているせいか歩く校庭は明るく、二つの人影を映し出す。
 一つは俺の。もう一つは……
「……うー。風が寒いなあ……」
 ぶるり、と体を震わせて、青いマフラーの中に顔を埋める俺の可愛い恋人。
「渋谷くん、大丈夫?」
「ん。大丈夫です」
 頬を林檎の様に赤く染めてユーリは笑う。あの告白から色々あったけれど、今では出来るだけ一緒に帰るようになった。
 勿論待ってくれるのはユーリ。先に帰ってもいいよ、と以前言ったのだけれど、『コンラッドは、一緒に帰りたくない?』……なんて可愛らしく上目使いに見つめられたら横に首を振るなんて出来ない。
 ユーリは待っている間、補習の時と同じように英語のプリントをする。日課になってしまったと言って、こつこつ勉強を繰り返して、なんとこの前の学年抜き打ちテストでは英語で堂々の満点。一位をとった。
 コンラッドが教えてくれるおかげだよとユーリは言ったが、ここまで英語が出来るようになったのは彼自身の力だ。
 ふらり、数ヶ月前のことから今のことを回想しているとひときは冷たく強い風が吹いた。
「……ふあっ! さっぶ!」
 彼は少し大きな声で再び体を震わせた。その仕草はなんだか子猫のようで可愛らしく俺は小さく笑う。小さな体がこれ以上冷えないようにと、少し勇気を出して彼の肩を自分へと引き寄せる。
 驚いたのか、彼の口の中であっ、と籠る声が聞こえて淡い想いが胸で募ってゆく。多分、俺の頬は彼の林檎ほっぺと同じくらいに赤く染まっているのかもしれない。
「もう、生徒もいませんし……。少しくらい恋人らしいことしてみませんか? ……ユーリ」
 自分は格好よく彼の名前を呼べていたであろうか? そう思うよりも青臭い羞恥がこみ上げてちら、とユーリが目が合った早々に逸らしてしまう。逸らしてすぐに小さくユーリの笑う声が。
 寒いのにどうしてこんなにも温かいのだろう。
「……うん! コイビトどーしなんだもんね、オレら! だからオレも……」
 ぎゅっ。
 肩にかけていた手を外されたかと思えばその手は彼の白い手と絡んだ。驚いて目を見開いて彼を見れば、小悪魔のような笑みを見せて言う。
「こっちの方があったかいよね。『恋人繋ぎ』……な! ウェラーせん、ああじゃないや……コンラッド!」
 だけど、コンラッドの手は冷たいや、と冗談を言うユーリはすぐに前を向いてしまう。彼の顔はもう見えないけど、黒髪から見え隠れするちょこんとした愛らしい耳は真っ赤。
ああ、全く、このもどかしさがたまらなく愛おしい。

寒い日の特権

 一回りも小さな彼はどこまでも俺を幸せにする。
 二人の手の温度が心地よく馴染むころ、ユーリはぽつり、と呟いた。

 たくさん、恋人らしいことしようね、と。


END




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コンラッドside。いちゃいちゃし過ぎな二人。