たまに、思う。
十六歳のころは無条件に甘えが許されていた。みな、両手を広げてオレを甘えさせてくれた。それはまだ、恋愛とかセックスとかなにも知らなかったころ。それからいつの間にかひとを愛することを知った。ややこしい感情に揺さぶられて溺れて、戸惑って。 幸運にもオレは愛されたいと願った相手に愛された。
コンラッドはいつもオレを甘やかす。ごくごく自然に。だから、知らなかった。皆に甘やかされていたことを。恋愛は結構重い。愛はそれ以上に重い。しかし、いやな重さではなかった。けれど、たまにそれはとても面倒だ。
例えば、コンラッドにお見合いの話が入ればオレは不愉快になるし、妙にいじけてしまう。彼が断れないのは理解しているし、自分だって、同じ展開なれば、渋々承諾しているだろうから。恋愛なんてしなければ、こんなことはなかっただろうに。
けれど、そのじめじめした梅雨のようなオレの感情でさえ、コンラッドは愛しいと言ってくれる。まさに、恋は盲目状態だ。自分にもそれは言えたことでコンラッドが不愉快になれば、それだって愛しいと思ってしまう自分がいる。
だから、彼の重い愛に侵食されていく。
オレは彼を縛る。
甘えることが限定される。嫉妬で。だがそれも幸せで苦痛ではなかった。愛される重さは心地いい。けれど、時々混乱する。寂しくて、反動で。
* * *
「……ユーリ、どうかしたの?」
「こ、んらぁ……ど、」
「ただいま、ユーリ」
彼が一週間振りに帰ってきた。まだ、重い瞼にコンラッドの接吻が左右に落ちる。それが、少し、不快だった。近づいた顔を手のひらで押し返す。
「……コンラッド、冷たい」
真冬の夜は、冷える。部屋は蝋燭の炎の色で染められて橙になり温かであるのに。彼の唇も顔も手も全て氷のように冷たい。
それは、不快だった。
「ユーリ、泣かないで」
「泣いてない。泣いてないから、触るな」
でも一緒に居過ぎた彼にはもうそんな嘘なんて通用しないことをオレは知っていた。 けれど、素直に頷くことなんて出来なくて。でも、吠えてしまいたいほどの衝動が胸のなかで渦巻く。
ああ、どうしてこんなにやるせないのだろう。
「ユーリ、ユーリ」
「呼ばないで」
彼は寝台に諸膝を乗せてオレを抱きしめる。触らないでと言ったのに。冷たい体でオレを抱きしめる。大丈夫だったのに。あんたが呼ぶから脳みそが揺れて揺れて、混乱。
「大丈夫、俺はここにいますよ」
「嘘つき。もう、やだ。オレたまにあんたのせいでおかしくなるよ」
好きで、好きで。愛が深くて抜け出すことができない。
「愛してる、ユーリ」
「だっから、ぃう、なっていって……ひ、あ、ふぅうああ。ごめん、ごめん。コンラッド」
一体オレは誰のために王様をしているのだろうか。わからなくなる。この甘やかしてくれるどうしようもない男のせいで。皆に平和をもたらせたくて、毎日執務室の扉を叩く。それはやらなければいけない仕事で王様の勤め。
でも。
「コンラッド、コンラッド。手が冷たいよ」
その度に彼を危険な任務へと送り出さなければいけない。だれかが、やらなければいけないのは分かっている。けれど、割りきれない。矛盾してる。
「大丈夫。貴方を抱きしめているから、体も手も顔も唇も温かいよ。だから、ユーリ笑って? 俺のほしい言葉を下さい」
彼はオレを甘やかす。大人になったオレを恋愛してしまったオレを抱きしめて甘やかしてくれるのはコンラッドしかいない。赦されない。皆のために王としての勤めをしているはずなのに、どこかで躊躇う自分がいる。これに承諾印を押さなければコンラッドが任務につくことはないのにと。彼の体が冷えることはないのに。
Love is in love
「コンラッド、おかえりなさい。……寂しかった」
「俺もですよ、愛しい子」
オレは王であって、神様ではない。
地に足をつける人間で魔族だ。
オレはひとを愛してしまった。
オレは酷い王様だ。
オレは、コンラッドのために王様をやっている。みんなが一番じゃない。
そう、思ったら、また脳みそがぐるぐるして。涙が零れそうになる。
「愛してる……」
コンラッドはオレを甘やかす。冷たい唇でオレのものに重ねて、思考を溶かす。オレは彼の首に手を回す。こんな罪深い想いを許してくれるのはコンラッドだけだから。
また、オレは彼を甘やかした。
END
甘やかし甘やかすコンユ。甘甘。