局はこんな甘い展開。

 また、コンラッドがひょんなことから地球にスタツアしてきた。聞けば、おそらくだか眞王の気まぐれらしい。いつも自分が、スタツアしているみだから突然のコンラッドの逆スタツアも嬉しいサプライズだが、少々眞王の気まぐれには頭が痛くなる。
 朝のロードワークを終えて、シャワーを浴びていたら、浴槽に少しだけ溜まった水たまりに彼が現れたのだ。きょんとしているコンラッドを目の前にユーリは思わず叫んでしまった。
 だって吃驚するだろう、普通。突然現れたら。裸だし。……恋人だし。



「……なんてこと思う自分は、相当乙女思考だな」

 冷えた麦茶と、コップをお盆に載せながらユーリは小さくため息を吐いた。今日は日曜日。幸い、お袋と親父は朝から出かけていて、勝利はなにやら同人なんとかのイベントがあるらしく昨日からいない。しかも、イベントが終わったらオフ会があるらしい。おそらく帰ってくるのは明日だろう。

それまではコンラッドと二人っきりだ。思わず、顔に浮かんでしまう。そんな自分にはっとして表情をユーリは表情を引き締めると、階段を上り自分の部屋をノックした。

「コンラッド、入るよー」

「どうぞ」柔らかいコンラッドの声が内側から扉を開ける。眞魔国では、コンラッドの部屋でこうして迎え入れてもらうことはあるが、地球で出迎えられると新鮮だ。

「陛下の部屋なんだから、わざわざ許可を得なくてもいいのに」

 苦笑するコンラッドにそう言えばそうかもしれないとユーリは笑い、それから彼の口癖が映ったのか「つい癖で」と言った。

「いや、あっちだったらさコンラッドがこうして出迎えてくれるから思わず。……ていうか、あんたもさこっちに来てまで陛下って呼ぶのやめろよ。あっちでは魔王でもこっちでは普通の高校生なんだからさ」

「そうですね、すみません」

 まったく悪びれた様子のないコンラッドを再び狭い部屋のベッドの横に座らせると、その目の前のテーブルに持ってきたお茶菓子と飲み物を置く。さすがにこちらにいるのに軍服を着ているのもあれなので、勝利の服を渡したのだが、いい男はなんでも似合うのかどこにでもある普通の服をかっこよく着こなしているように見える。特に、ワイシャツから覗く鎖骨からはそこはかとなく色気も漂っている。
 その色気にあてられて逆上せたのか、はたまた無駄にユーリ自身のテンションが高いのか、普段では口にしないようなことを口にした。

「そ、それに……プライベートなんだからおれたち恋人同士じゃん……っ」

 最後は恥ずかしくて小声になってしまうが、コンラッドにはしっかりと聞こえていたらしい。ちらり、と様子を伺うように目をやれば蕩けそうな笑みを見せている。ああ、全くこっちが恥ずかしくなるような笑顔だ。とユーリはますます顔を朱に染めた。

「ユーリ」

「なんだよ」

 愛おしそうに呼ばれると、こそばゆいような嬉しい気持ちが胸に募る。そんな自分が恥ずかしくてたまらない。
 しかし、再び口を開いたコンラッドの一言に一瞬にしてふくふくとした気持ちは氷河期に直行することとなった。

「これはなんですか?」

 にっこり。
 そんな擬音語が似合う笑顔で彼は言う。コンラッドが手にしていた物。それを目にしてユーリは浴室の悲鳴よりもさらに大きな声で叫んでいた。

「ちょっ!? 待て待て待て! 返して!」

 がちゃん! 暴れた拍子に膝をテーブルにぶつけたがそんなことは構っていられない。慌てて、コンラッドの元に駆け寄りそれを奪おうとしてみるが、うまい具合に避けられユーリはすっぽりとコンラッドに抱きすくめられる状態になってしまった。それでもなんとかして、コンラッドは何も言っていないが誤解を解こうとユーリは躍起になっていた。自分が変態だとは思われたくない。

「べべべ、別におれの趣味とかじゃないんだ! その…そのっ!」

「その、どうかしたんですか?」

 このままいくと言わなくていいことをつるっと口にしてしまうような気がする。そう思うが、考えが上手くまとまらない。「あーうー」と口をむぐむぐしていると、コンラッドは喉って笑ったあと、楽しそうにそれでいて艶やかな声で口を開いた。

「んっ……ぁ、あっ! は、あ……んっ」

「やめてえええっ! 読まないで! 恥ずかしいから朗読しないで! そのBL小説は村田から渡されたんだよっ。それでコンラッドの付き合い方を勉強したらって言って……っ!」
「それで、ユーリは読んだの?」

 また答えづらい質問をする男だ! 思わず、キッとコンラッドを睨みつけてみるが相変わらず楽しそうな微笑みを浮かべている彼に敵う気がしない。と、いうか先ほどよりも色気が増していないだろうか。

「……俺とこういうことしてみたい?」

「み、耳元で囁くなばかっ!」

 どうして自分はベッドの下といういかにもベタなところに小説を隠していたのだろう。鞄のなかに入れて置くとかしておけばよかった。
 今更ながら、ユーリは自分の安直さに舌うちをしたい気分になった。エロ本を見つかるのも大層恥ずかしいことだろうけれど、男同士で付き合っている身では、BL小説を見つかる方がもっと羞恥を煽るのだ。……しかも、艶やか声音で囁かれるのだから余計に居たたまれない。

 ……頬がとても熱い。

 ユーリは自分の頬に手を当てた。

「ユーリって、本当に無自覚で可愛い仕草しますよね」

「はあ?」

言っている意味が分からない。年甲斐もなく落ち付きのない行動のどこが可愛らしいのだろう。小首を傾げれば、頭のてっぺんにキスを落とされる。

「……コンラッドは、小説のひとみたいなこと平気でするよな」

「ふふ、やっぱり読んだんですか」

 したり顔でコンラッドはユーリの髪を撫でる。ああ、やはり口を口を滑らせてしまった。後悔しても、言葉は戻ってこない。と、いうか心なしか甘い雰囲気が漂ってる気がする。なんだかむず痒い。でも自分もその気になっているような気がする。仕方のないことかもしれない。最近、コンラッドに会っていなかったのだから。……この雰囲気にのまれてしまおうか。彼の心地よい体温と匂いに酔ってユーリはそんなことを思った。

「読んだよっ! だって中身気になるじゃん……っ。恥ずかしくて全部は読めなかったけど」

「では俺が読んで差し上げましょうか?」

「いいえ、結構です。てか、コンラッド日本語読めたっけ?」

確か文化祭に来てくれたときは文字が読めなかったはずだ。問えば、コンラッド「今も読めませんよ」と言った。

「読めませんけど、少しは勉強したんですよ。ひらがなくらいならなんとか。だから『やあっ……そこ、だめ、へんになっちゃ……っ』とかなら読めます」

「だから、喘ぎ声は読まないでいいから!」

 良い男がいい声で喘ぎ声をリアルに朗読されるとなんだか変な気分になる。
そんなユーリを心情など、知らずに笑顔のままでぺらぺらと小説を捲れば今度は挿絵を見せてくる。しかも、繋がっている場面だ。イラストだといえ、生々しい。
「こういう体勢はまだ試してなかったですね」

 人が家にいないことと、存分にプライベートの時間を満喫しているからかコンラッドはとことんユーリを苛めたいらしい。最初の可愛い笑顔はどこにいったのか。だが、ユーリもやられてばかりでは納得いかない。

「今度試してみます?」

「嫌だ!」

 コンラッドの筋肉質な胸板を叩くと、ユーリは意を決意したように口を開いた。

「いま、する。……それと同じでお医者さんごっこもっあ、あんたのその恥ずかしい癖おれが治療してやるんだから!」

 我ながら恥ずかしいことを言っているのはユーリも重々承知だ。とりあえず、単純脳で意表をつくならこの方法しかないと思ったのだ。それに、いま小さくコンラッドに煽られて体が燻ぶっている。たまには自分から誘ってもいいだろう。ユーリの読み通り、きょとんとしたコンラッドからやっとこさ、BL小説を奪還に成功した。

「どうする?」

 分かりきった答えをユーリは聞いた。

「可愛いお医者さん、俺を診察してください」

 コンラッドは笑って、ユーリを抱きしめる。
 こんなのなくたって、自分たちは十分充実してる。まあ、少しは刺激になったけど。 取り上げたBL小説をテーブルの上に無造作において、二人はベッドに移動した。


END
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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