なんだか昔の自分に戻ったような気がする。 コンラートは普段と変わらず皆が集まる夕食の席で思った。 戻ったような気がするというのは気がするだけであって、まるであのときと同じではない。そのときの感情と感覚も雰囲気も当てはまらない。が、どこかが時折昔の自分に重なるのだ。 自分の主である、ユーリに笑いかけるときが一番そのような気分にかられる。薄っぺらい自分の微笑み。彼に対する感情がだんだんと枯渇している。「これ、おいしいな」と共感を促すような発言に「ええ、そうですね」と答えるもいまの自分には料理の味などまったくわからない。 昔と似ている。けれど、あの頃と絶対的に異なるのは異常なほど彼に執着していることだ。なにかに対して執着するなど、いままでなかった。 本当にこれは楽しいバッドエンドゲームだ。 と、内心自身の変化を嗤っていると視線を感じる。気がつかれないようそちらを意識してみれば末弟のヴォルフラムだった。いかにも不愉快だと言わんばかりの表情でこちらを見つめている。弟にはもう自分と主との間が歪んでいることが察しられているのかもしれない。 まあ、そんなことはどうでもいい。 どうせ、歪んでいると察したところでふたりの関係は表面上なんでもないように見えるのだ。それにとくに問題を起こしてこのような状況に陥ったわけではない。一体なぜ歪んでしまったのか、ヴォルフラムにはわからないだろう。むやみに首を突っ込んだりはしないはずだ。そこまで弟は愚かな奴ではない。 ヴォルフラムの刺さる視線を無視しして、偽りだらけの楽しい食事を楽しむ。主が自分に微笑み、はなしかけるたびに胸のなかがゆっくりと淀んでいく。 「陛下」 「ん?」 「可愛らしい唇の端に、ソースがついてます」 主の左頬に指を滑らせて、あたり前であるように拭い、舐める。すると、彼もまたいつもどおりに頬をわずかに赤らめた。 まったく可愛らしい。 そして、壊してしまいたい。 笑いもせず、泣くこともできずただ、傷だらけのビー玉の瞳で自分をそのうち映してくれないだろうか。 「……ありがと」 「いいえ、どういたしまして」 順調に独りよがりのゲームとつまらない食事会は続く。 しかし、自分は間違いを犯していた。これは仮想ゲームではない。ゲームプレイヤーの主人公が自分でもあっても、そこに登場するほかのプレイヤーはコンピューターではない。彼らもまたプレイヤーなのだ。 ユーリも同じ。 ゲームは順調であり、そして自分の思うとおりには進まない。 いまの自分にはユーリの考えなどわからない。わからないから、彼の身にこれからなにが起きるのか知るよりもなかった。 |