きすきだいすきあいしてる!


 とあるへたれ獅子から黒猫を預かった。
 仕事が遅くなるらしく、それまでの子守。
 子猫はとても素直で僕の手を焼いたりはせず、ドリルの勉強やテレビを大人しくみたり、今はお絵かきに夢中だ。テーブルからはみ出さないように器用に勢いよくクレヨンを使う。テーブルに肘付けてそれを見て、ふと前のことを回想する。
 稀に見る漆黒の髪に瞳。オレンジ兎のヨザックからあのへたれ獅子が溺愛していると耳にしたときは本当に驚いた。
 しかし、こうして交流しているうちになんとなくあの彼がこの子猫を溺愛するのも分かるようになった気がする。
ぐりぐりと大きい素直な瞳にどんな物音でも捕える大きな耳。好奇心旺盛に揺らぐ漆黒の長い尻尾。舌ったらずな口調がなんと言うか庇護欲をそそるというか。
「……まあ、僕は彼やバカ兎みたいにはどろどろと甘やかしたりしないけどね。で、それは?」
「んー? こんらっどだよー」
 にこにこと笑いながらぐりぐり画用紙いっぱいに彼を描いてる。ああ、ご機嫌に【具・上樽のうた】まで歌ちゃってまあ。
「ねえ、黒猫ちゃん」
「う?」
「僕のことすきー?」
「すきー!」
「ヨザックは?」
「すきー!」
「……コンラートさんは好き?」
「んーん、すきじゃない」
 ぐりぐり! クレヨンがそんな音を立てながら予想外の言葉に目を見張れば子猫は答える。
「こんらっどはね、だいすきなんだよ!」
「……よくもまあ、そんな恥ずかしいことを言えるね。流石はコンラートさんのお宅の猫だわ」
 冗談でも聞いたこっちが馬鹿だった。なんて惚気だ。
「むらたはゆーりのことすきー?」
「すきだよ」
「こんらっどはー?」
「……(まあ遊ぶ分には)すき、かな」
「ぐりえちゃんは? むらたはぐりえちゃんはすごーくすきでしょー?」
黒猫はこちらをみようともせず、お絵かきに夢中だようだ。なんだ、すごーくすきって。まるであのバカ兎が僕の特別みたいな。
「……子猫ちゃん」
「なあに?」
「秘密守れる?」
「まもれるー!」
「絶対に秘密だからね。秘密にしないとその黒い耳齧っちゃうんだから」
小さな子になんてこと言うんだろうとは思うものの、どうにもこの子の前じゃ嘘がつけないから困る。
「……ヨザックのこと、大好きだよ」
「本当ですかケンちゃん!」
 返事が違うところから聞こえてがばりを顔を上げればいつの間にやら帰ってきた二人が! 最悪だ、まさか本人の前で言ってしまうなんて! バカ兎の後ろの獅子はしたり顔してるし、なんて失態! 逃げる間もなく突進してくる兎に捕まってしまった。
「オレもケンちゃんのこと大好きですー!」
「うるさい忘れろ! いますぐ忘れろ! 僕は帰る!」
「ケンちゃん、ケンちゃんー」
 ああ、本当に恥ずかしいことを口にしてしまった。これじゃあ秘密も何もないじゃないか! そう赤面のした視線の先には子猫を溺愛する獅子と抱っこをされている黒猫が。
子猫は先ほどの質問を再び口にする。
「ねえねえ、こんらっどはゆーりのことすき?」
「いいえ」
「じゃあ、だいすきー?」
「いいえ」
 おそらく、大好きで返ってくると思ったのだろう、否定の言葉を聞いた途端、口がふにゃりと歪んだ。そんな子猫にコンラートさんは頬にキスをして恥ずかしげも口にした。
「愛してる」






(ああ、この二人には敵わない!)

END


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村田様視点。獅子と子猫はいつもらぶらぶ。