っちゃだめ!


 いい子の子猫、黒猫子猫のユーリは今日もお家でお留守番。
 リビングにあるふっかりとした大きなソファーにちょっこり乗って大好きなコンラッドの帰りを待ちます。小さな身体と同じくらいの大きさのケティをぎゅっと抱きしめながら、【具・上樽】を観ます。
 大好きな番組なのに、今日のユーリはなんだか落ち着きがありません。終始小刻みに大きなお耳が動き、尻尾はうねっています。一体どうしたのでしょうか。
「……ねえ、ケティおそとがまっくら、なんか、ごろごろいってる」
 ユーリがいう通り、お外は真っ暗です。いつもはふわふわ綿飴のような真白い雲もどんよりと灰色をしています。子猫がソファーから窓のほうへと移動して下をいれば、街路樹が風で大きく揺れていました。
「あめがふりそう……」と、呟いた途端に大粒の雨がぽたりぽたりと窓に落ちてきました。すぐに雨はざあざあと大きな音を立てながら全てを濡らしていきます。数分もたたず、眞魔はバケツをひっくり返したような土砂降りです。8月というこの時期は特に暑く今日のように突然雨が降る、通り雨も多く、またこのところは特に気候が不安定なのか、一日に何度か雨が振ったりやんだりします。
 あまりにも雨の音が大きいのかユーリは猫耳をすぐに掴み、耳を塞いで、ぬいぐるみのケティの待つソファーへとすぐに戻りました。ケティのお腹に顔を埋めるようにしてソファーに横になると、やっと落ち着いたのか耳を塞いだまま、再び番組を観始めます。
「やだなあ。きっとごろごろもっと大きなおとのかみなりさんがくるよ」
 音に敏感なユーリは大きな音が苦手でした。特に亀裂のような音の出る大きな雷が苦手です。雷が近くで落ちるたびに心臓がばくばくとするからです。先ほどよりもそわそわと尻尾を動かしていると……。

 ――……ゴロゴロピッシャーンッ!

「いやあ! かみなりさん落ちてきたっ」
 思わず涙目になりながら片手で再び、耳を抑えようとしたとき、子猫の耳がぴくんと動きました。
「ただいま、ユーリ。よかった、雨が本降りにならない前にマンションについたから、濡れずに済んだよ」
「こんらっど、おかえりなさい!」
 玄関でいつものようにしゃがんでユーリの包容を待っている大好きなコンラッドに子猫は勢いを殺すことなく抱き付きます。すん、と鼻を動かすとコンラッドの匂いに安心したのか、少しばかり目に溜まっていた涙も引いたようです。
「ユーリは今日もいい子にしていたみたいだね。雷が鳴っても泣くの我慢したね、えらい、えらい」
 小さな子猫を抱き上げると、雷が聞こえないようにユーリの耳を自分の肩に抑えて、コンラッドはソファーに座りました。すると再び、ゴロゴロピッシャーン! と雷が落ちてきました。と、いきなりぎゅうぎゅうぎゅう! とコンラッドに抱きついていたユーリが怖いのも忘れたように突然コンラッドのお腹を押し始めたのです。
「え、なになに。どうしたの、ユーリ」
 コンラッドもさすがにわけが分からず、「どうしたの?」と声をかけることしかできません。
「だって、こんらっどのとられちゃうもんっ」
「盗られる?」
 ユーリはコクンと頷いて、コンラッドの目を見ると真剣な声でいいます。
「こんらっどのおへそ、かくさないとかみなりさんがとっちゃうかもしれないから、ゆーりかくすのっ!」

おへそとっちゃだめ!

 そういうユーリが本当に愛らしくて、コンラッドは再び子猫をぎゅうぎゅうぎゅう! と抱きしめました。大丈夫、抱き締めていればおへそは隠れちゃうからと。幸せそうな顔を隠しもせずに。



END

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コンラッドはかわいいなあって多分顔面崩壊してますね。