ねこのゆめ


 可愛い愛しい俺の子猫。
 きゅるきゅるとしたおめめに艶やかな黒い毛並み。ぴくぴく愛らしい大きなパラボラ アンテナのように先が尖るこれまた大きなおみみ。
 最近、ひとりでおつかいが出来るようになりました。賢いユーリ。
 誰よりも大切なきみ。
 そんなきみは将来の夢は一体なんだろう?
 正義感溢れる警察官かな? 責任重大消防士かな? いや、
 困った人を見過ごせないからお医者さんかもしれないね。
 ああ、でもお菓子が大好きだからパティシエもいいな。
 頭が良くて、誰にでも親切なきみ。
 将来どんな人になるか、とっても楽しみだ。
 ついつい、テレビ番組で将来の夢を語る特番がやっていると考えてしまう。
 お気に入りのケティのヌイグルミを両手いっぱいに抱き締めて、俺の隣でテレビを見るユーリの頭を撫でながら、聞いてみる。
「ねえ、ユーリは将来なにになりたいのかな?」
「う?」
 突然聞かれてきょとんとした表情を見せる子猫にもう一度聞いてみる。よいしょ、ユーリを膝の上に乗せて。
「だからね、ユーリは一体大きくなったらなにになりたい? 夢はなにかな? 夢はあるかい?」
 ユーリはあるよ! と元気に答えた。「そう」と相槌を打って先を促してみる。さあ、一体子猫は小さな胸にどんな大きな夢を抱えているのか。
「ユーリのね、夢を俺は精一杯応援するつもりなんだ。だから、教えてほしいな」
「ほんと! ゆーりのゆめをおうえんしてくれるの?」
「もちろん」
 ほんわかと温かいユーリの体を抱きしめていたら子猫は後ろに身を捩って体を反転させる。無意識の上目使いがなんとも可愛らしい。
「あのね! ゆーちゃんね!」
「うん」

「こんらっどのおよめさんになるの!」

「……え、」
 思いもしなかったユーリの言葉に思わず声が上ずった。子猫はそれに気がつかずに話をどんどんと進める。
「だって、およめさんになったらずっとこんらっどと一緒だもん! ゆーりはずっとこんらっどと一緒がいーのっ!」
「ユーリ……」
 多分子猫は『お嫁さん』の意味をしらないのだろう。それでも、そんなことをいってくれるのがとても嬉しくて俺は破顔した。
 こんらっど、どーおもう? 小首を傾げる子猫に俺は笑顔で答えた。
 あなたの夢は俺の夢かもしれませんね。
 そう、答えた。
 今日も一つ子猫から幸せを貰いました。


END