我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我がまんがまんがまんがまんがまんがまんがまんがまんがまんがまんがまんがまんがまんがまんがまんがまんがまんがまんしなきゃ、しないと、しなければ、していないと、だめだ。だめだだめだだめだだめだめだめだめだめだめだめなんだよ! あああああ、あああああああ、我慢するって苦しい、いきができない、くるしい、くるしいいいいい!
 でも、我慢しなきゃ、我慢、我慢。うあああ、あああ。
 自分に言い聞かせる。おれは世界を平和にする義務がある。それが、重苦しい魔王という肩書きを背負っていても自分が言ったことなのだから実現しなければいけないことなんだ。そのためにみんなが協力してくれているんだ。低能で非力で貧弱で何もかも赤子同然のおれにはこの夢を実現しなければならない義務がある。頑張らないといけない。頑張らなければおれはここに存在する意味がない。生まれてきた資格がない。意味がない。あああああ、不安で押しつぶされてしまいそうだ。苦しい、くるしい! 怖い、恐怖! でも、我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢するんだ! ああああああああ、あああああああ、あああああああああ!
 裏切られても我慢。蔭口を言われても我慢。暴力を振るわれても我慢する。
 正直痛いのは嫌いだ。嫌われるのは嫌いだ。裏切られるなんて嫌いだ。大好きな大好きなコンラッドから裏切られたときはほんとうに死んでしまいたいと思った。死んで、鳥に目玉を抉られて、野犬に内蔵を貪られてどろどろで汚く自分の姿が原形をとどめなくなるまでぐちゃぐちゃにされたいと思った。
 でも、自分は我慢した。ずっと、ずっと、ずっと、我慢した。毎日、嫌な夢を見たけど、我慢した。本当はコンラッドをいっそのこと殺してしまおうと思ったけど我慢した。我慢して、し続けて、いまは良かったと思っている。
 だって、おれの愛する彼はおれの元へと帰ってきてくれたんだから!
 我慢しててよかった。我慢することはいいことだ。
 我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢は最高!
 我慢していればなんとかなるし、我慢してくれればコンラッドが「ユーリは優しいこだね」って「いいこだね」って頭を撫でてくれる。コンラッドが褒めてくれる。
 我慢はいいことだと思う。
 でもやっぱり、苦しい。
「渋谷あ、あんまり我慢しすぎるとからだに毒だよお?」
 村田がのんきな声で言う。
 ただいまおれは、血盟城のなかを村田と徘徊中だ。コンラッドは兵の指南中でいない。まだ、昼間だし、ちょっと図書館に行くだけなので兵もいない。のんきでのんびりした村田の言葉におれは「そうだね」と答えた。
「でも、仕方ないじゃん。おれは魔王だもん。我慢しなきゃ。我儘言っちゃだめなんだよ。それにみんなそうだろう。上に立つひとはみんな悪口とか言われるのはあたり前なんだ。おれは自分のことを言われるのは平気」
「ふうん? やっぱり渋谷は偉いよねえ、いいこだよねえ。それじゃあウェラー卿がきみを溺愛していても仕方ないよね。渋谷は魔王って言うよりも天使って感じだもの。優しくて、可愛いから」
 村田の言葉のほとんどは、嘘ばっかりってことをおれは知ってる。だからおれは村田の言葉を信じない。まあ、おれと話すときだけはほとんど真実だよっていうけど、それでもおれは彼の言葉を信じない。村田は病気だ。自分がどれくらい嘘をついているのか自分でもわかっていないんだ。きっと、この世に地獄があるとするならば村田は地獄行き決定だ。その良く動く舌を二枚に裂かれてそこでも本を読んでいるだと思う。村田は本当におれと違って頭いいから地獄に行ってもうまくやって行くに違いない。
 そんなことを思っていたら、勝手にひとの心を読んだのか、村田は「渋谷は面白いことを考えるね」って笑った。面白いっていうか、絶対おれはそうなると思うんだけどな。
「まあ、村田が言うように、我慢のし過ぎはよくないよなあ。でもさ、我慢するのになれちゃったから、我慢をすることは前より苦痛じゃなくなった気がする。これもシマロンとの対戦で身についたおれなりの成長なのかな……」
「そうかもしれないねえ。あの一戦できみはとても成長したと思うよ」
 成長した。と言われるのは本当にうれしい。できないことばかりだったおれが少しでもひとの役に立てるようになってきたってことだから。嘘かもしれない村田の言葉におれは嬉しくてはにかんだ。
 と、回廊のさきから談笑する声がする。ああ、そう言えばグウェンダルが今日は貴族を招いて夜は夜会を開くとか言っていた。ひとと話すのは好きだけど、夜会は苦手だ。重いマントをはおらなければならないし、どこかひとの様子を伺うような取り繕うような笑顔を浮かべて話すひとが多いから。おれは思わず顔をしかめた。
 でも、これも我慢しなくちゃいけないことだ。我慢、我慢。自分にそう言い聞かせて小さく息を吸ったとき、前のほうから変な音がした。
 
 ぐちゅちゅ、ぱあん!

「あ、」
「あっはっは! 熟れすぎて弾けたスイカみたいだねえ! 渋谷!」
 回廊のさきで歩いていた貴族のふたりの頭が弾けた。村田が例にあらわしたスイカみたいに勢いよく頭部の原型も全くとどめていない。ただ、スイカと違うのはなかがしっかりしていないからどろどろと白子のようなものがにゅるにゅるととめどなく出てくるのだ。気持ち悪い。たぶんあれは脳みそだ。にゅるにゅるどろろろろ。
 気持ちが悪い、けどおれは倒れた死体まで全力疾走した。走って、走って、

「ウあぁああああああああぁああアアっ!」

 思いっきり崩れた頭部の破片を蹴っ飛ばした。サッカーボールみたいに思いっきり蹴り飛ばす。それらは至る方向に飛び散る。壁に窓に靴先に。しつこいくらいねちゃねちゃ飛び散ってずるるーっと重力に従い床に落ちていく。それでもおれはやめない。蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る! ちくしょうもっと吹っ飛べ! 汚いなあ! 
 けっ飛ばして、踏んで息も切れてきたころ、ゆっくり足取りの変わらない村田がおれに追いつく。この野郎まだ笑ってやがる。お前の頭もけっ飛ばしてやろうか。
「渋谷、僕の頭までスイカにしないでくれるかな。これから、きみの世界平和の願いを叶えるために図書館に引き込持ってお勉強するんだから。せめてきみの願いが叶うまではぐちゃぐちゃにしないでよ。刺して殺すくらいならいいけど、ここまで肉片がとびっちったら再生は難しいんだから」
「なら、笑うのやめろよ、かなり苛々するから」
 言えば、ひとの話を聞いてるのか聞いてないのかまた村田はほくそ笑みながら「はいはい」と答えた。ああ、やっぱり腹が立つけど我慢我慢我慢しなきゃ。
 長い息を吐くと近くに落ちていた眼球を見つけた。見てんじゃねえよ。潰す。思いの外眼球が固い。ムカつくので今度はひねりを入れて潰す。ぐりぐりぐりぐり、ぷちゅっ! 可愛い音を立てて眼球が潰れた。
「我慢、するんじゃなかったのかい?」
 村田が問う。おれはそれに小さく頷いた。わかってる我慢しなきゃいけないことだって。でも、でも、でも、これだけは絶対に我慢できない。
「……だって―」
「ユーリ!」
「コンラッド?」
 後ろから声がする。大好きなひとの声。
「あれ、剣の指南中じゃなかったの?」
「さきほど、終わりましてあなたを迎えに行こうと思ったら、窓辺からあなたと猊下の姿が見えたので。しかも、護衛の兵の姿が見えなかったのでもしやおふたりで……と思いまして……ユーリ、これは?」
 眉根に皴を寄せてコンラッドが隣にくる。あーあ、見られてしまった。血生臭いにおいが周りに充満する。もうおれの靴もズボンの裾も血でべっとりだ。汚い。
「……だって我慢できなかったんだもん。コンラッドの悪口。自分はなにを言われてもいいけど、コンラッドの悪口だけは我慢できない。赦さない……っ」
 口にすれば、目がかっと熱くなって視界が歪む。その瞬間、おれは腕を引かれて目の前に広がったのは、見なれた深緑の軍服だった。彼の優しい匂いが鼻腔をくすぐって更に涙腺が緩くなる。
「俺のために、してくれたことなんですね。ありがとうございます。泣かないで、ユーリ」
「……こんなことしてもコンラッドは怒らない?」
「ええ、俺のことをこんなにも思ってして下さったことなのですから怒るはずがないでしょう? 俺はとても幸せ者です。こんなにも愛情を注いでくださる恋人がいて……ユーリは優しい子ですね」
 コンラッドはおれの頭を優しく撫でてくれる。こんなに優しい彼が悪口を言われるなんておかしい。だから、これだけは我慢ができない。
 影口は怖い。暴力は怖い。兵器は怖い。それらは遅かれ早かれ愛するひとを陥れる。悪い噂はおれの大嫌いなゴキブリみたいに広がって、汚れて、嫌なにおいを充満させる。だから我慢できない。
 この頭を撫でる優しい手をおれは失うわけにはいかない。
 愛する者を奪うものにはおれは我慢できない。
「あーあ、まったくきみたちは本当に会えばいちゃいちゃしちゃってお熱いことだね。渋谷はそのまま部屋に帰るといいよ。もうすぐ図書館につくし、御暇なお庭番がそろそろこちらに到着するころだと思うしね」
 村田はまたいやらしく笑っておれの横を通りぬけて回廊を歩いていく。それを目で追っていくと、額にかかった髪が持ち上げられて、キスを降ってきた。
「それでは猊下のお言葉に甘えて、俺達は部屋に戻りましょうか。その前に、ここを下女に掃除をしてもらって、グウェンダルの小言を受けましょう。大丈夫、グウェンダルもわかっているでしょう。だってユーリはいつも我慢をしているのですから」
「死体はどうするの?」
「大丈夫、アニシナにどうにか記憶でも操作をしてもらえばいいのです。あなたはいつも正しいのです。愛する人を貶める者などあなたの望む世界には必要ないのだから」
 コンラッドは言ってまた、頭を撫でてくれる。
 コンラッドがそう言ってくれるのだから、きっとそうなのだ。コンラッドが言うことは誰が間違えだと言ってもおれはひとつも疑わない。
 だって愛するひとの言葉なのだから。

「コンラッド、だいすきだよ」

 彼を守るためならなんだって我慢する。だけど、コンラッドを陥ることはどんな小さなことだって赦してあげない。




 −−−それが我慢するってことだろう?



 するとタイミングよく、村田の小気味のいい笑い声がした。
END


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