わずかにくたびれた軍服を無造作に脱ぎ捨てて、浴室へと向かう。シャワーコックを捻ると、雨のように適度な温度がコンラートを濡らしていく。 「……甘い匂いがする」 密閉された空間。蒸気がたまり、肢体についた汗や匂いを排水溝へと流れていく。額に張りついた前髪を掻きあげ数時間前のことを思い出す。この手で、愛撫を施し、体を繋ぎ合わせ、熱を分かち合った女のことを。 「記憶力でも悪くなったかな?」 どうしてだか、思いだせない。目を瞑り幾重にも張り巡らされたシナプスの糸が変なところで繋がり、瞼の奥に浮かびあがるのは少年の淫猥な表情と求める声だった。 これで何度目だろう。抱いた異性が少年になるのは。 コンラートは嘆息を漏らす。鼻を擽るのは、甘い香り。少年とは違う香り。それだけが、瞼の裏に焼きつく映像が偽りだと、壊れた神経系に忠告する。 本当にお前は、くだらない遊びに耽っている、と。 グウェンダルは言っていた。自分の行動を陛下は知っていると。刹那、笑いがこみあげてきた。 心配してくれた長兄の表情を思い出して。 困惑しているだろう少年の心理を想像して、笑いがこみあげる。 「……ユーリは、どんな気持ちでいつも俺と顔を合わせてくれているんでしょうね? まったく、可哀想だ。こんな男が護衛で」 しかし、こんな愉しいことをやめられるはずがない。 彼が、自分を気にかけてくれているのだ。ユーリの脳内の片隅に自分が存在している。離反したときのように、求める瞳で、さびしい表情で。 「本当に可哀想で、かわいいひとだよ。あなたは……」 もっと自分でいっぱいになればいい。 コンラートの天秤が傾いていく。あと戻りできない、ほうに。 「ああ、熱くなってしまった。……俺もまだまだ若いなあ」 肢体の一部に熱が溜まる。それを優しく指で撫ぜる。無意識に吐息が零れた。より強く瞼を閉じる。シャワーの音。より鮮明に浮かぶ裸の少年。動く指が早くなる。 映像じゃものたりない。彼に触れられないから。 コンラートは吐息を下唇を噛んで、殺す。 これでは、たりない。せめて夢に裸の彼が現れたらいい。そうしたら、夢のなかでなら彼に触れられるのに。 指で快感を引き出すたびに、瞼に浮かぶ少年を汚す。 「……ぁ、」 手のひらに熱がこぼれ、お湯とともにそれも排水溝へと流れ落ちる。 なんて滑稽なのだろう。 独りよがりのゲームはまだまだ続く。自分で作りだした遊びは、完結までのストーリーが楽しい。コンラートの終結を待つゴールテープさきはバッドエンドしかない。それまでは、後悔なんて気にならないくらいに楽しまないと。 手についた熱を舐める。おいしいわけがない。 それをどうして、抱きあった彼女たちは嬉しそうに舐めるのか。コンラートにはわからない。 「ユーリ、愛しています」 陳腐な言葉は己の耳に届くこともなく、それもまたシャワー音に叩き落とされ、排水溝に吸い込まれていった。 |