■ RING

 穴があったら入りたい。過去に戻ることが可能ならば、いますぐ数十分前までいいから戻りたい。
 ここまで絶望的な気持ちになったことがかつてあったのだろうか。
 渋谷有利はいま膝から崩れ落ちてしまいそうな心境を迎えている。
「しーぶや」
「……」
 名を呼ばれてもなんと返せばいいのかわからない。その以前に喉が渇いて声も出ないというほうが正しい。相手の顔も見れない。ただ、有利はひたすらに地に顔を伏せた。この行動のさきに答えなど用意されているはずもないのに。しかし、そうせずにはいられない。
 声をかけた少年はそんな有利のことも気にもせず、再び「渋谷」と話しかける。
「渋谷も思春期なんだなあ、彼女いるなら教えてくれてもいいのに。こんなの買っちゃってさ」
 こんなの、と言われたものを少年は無邪気に手にして笑う。
 ああ、なんて居たたまれない。
「まったく。おまえもオレと一緒でフリーだと思ってたのに残念だよ。今度、彼女紹介してくれよ」
「……彼女なんていないよ」
「違うのか? じゃあ、なにかセフレか! 純情少年かと思ってたのに……っ!」
 彼女でなくて、セフレでもなくて、自分にいるのは彼氏だ。もうひとつの世界では同性間の恋愛はそれなりに認められているがこの地球、日本では未だ差別されていると言っていいほど同性恋愛は認められていない。
 恋仲であるコンラッドのことを恋人として恥ずかしいと思ったことはないがわざわざ世間に敵にまわすような発言をいま口にしなくてもいいだろう。有利は小さな声で「恋人だよ」と答えた。
「そんなに恥ずかしがることでもないだろ。友達なんだし」
 そう、自分に話しかけた少年は友人だ。べつに恥ずかしがる問題はないのかもしれない。
 だが、この状況は……。
「まあ、渋谷がコンドームを箱で買うとはなあ。こんなシチュエーションなら恥ずかしいのも仕方ないか」
 超極薄! 付けているのかわからないフィット感! ジェルトップ加工コンドーム十二個入り、千二百也。……なんて恥ずかしいキャッチフレーズのついたコンドーム。地元で買うのは知り合いに見られないように考えて二駅離れた街まで繰り出したのに。しかも、小さな薬局を選んだというのに! なぜ、ここに友人がいるのか。エロ本を買うときよりも至極恥ずかしい。
「……増田っ! 一生のお願いだ! このことはどうか……っ」
 まるで神社にお参りをするように、手を顔のまえで合わせてお願いをする。
「まあ、べつにいいけどさ。……そんなに恥ずかしいことか? オレだったら絶対彼女のこと自慢するけどなあ」
 バーコードを機械で読み取って親切に、パッケージを見れないよう紙袋に包んでくれた。
 大変ありがたい。ありがたいがやはり居たたまれない。もう、過去に戻れないのでなるようにしかならないと開きなおるしかない。幸い友人、増田は口が堅いのでよかった。まあ、会うたびに「最近、彼女とはどう?」と冷やかされるのだろうけど。
「……と、言うか増田がここにいるとは思わなかったよ」
「ああ、ここオレの親戚が経営してるんだよ。アルバイトしてんの。たまには遊びに来てくれよ」
「おう」
 羞恥心が薄れたころにまた……と、心のなかで付け足して有利は返答した。紙袋に包んでくれたものを薬局のビニール袋に入れてもらい手渡される。「じゃあ、また今度な」と、足早に店を出ようとすれば、呼びとめられた。
「渋谷、これもよかったら」
 手渡されたのは、手のひらに乗るシルバーの紙で包装された品物。
「なに、これ?」
 表記が全部英語で書いてあり、解読できない。有利が首を傾げれば、増田は楽しそうな笑みを浮かべる。裏を見れば日本語訳でバイブレーションリングと書かれていた。
 ……バイブレーションリングとは一体?
「最近、入荷したやつなんだ。渋谷が彼女できた記念にオレからのプレゼント。楽しんでくれよ」
「なんかよくわからないけど……ありがとう」
「どういたしまして。たぶん彼女も喜ぶと思うぞ」
「うん?」
 仕様方法がよくわからないまま、増田からのプレゼントを受け取り、それもビニール袋へと入れる。恋人が喜ぶもの……コンラッドに英訳してもらえばこれがなんなのかわかるだろう。
「じゃあ」
「おう! 今度、ご飯でも食いに行こうぜ。そのときまでにオレも彼女作ってるから楽しみにしてろよー」
 ありがとうございました、と送りだされてやっと薬局をあとにする。街頭にある時計盤をみればまだ十分しか経っていなかった。
「……疲れた」
 無意識にため息と本音が小さく有利の口から吐き出される。
 まさかこんなのを買うなんて、自分で購入したものを有利は睨みつけた。


 ――購入したものをスポーツバックに詰め込む。
 コンドームを買うのはこれが初めてではないがやはり買うのは慣れないなあ、と有利は帰りの電車に乗り揺られながら改めて感じる。
 数か月に一回がこうして買いに出る。どうして、自分がこのようなものを購入するのかと言えば、いわずもがなコンラッドとの営みのため。それから自分の気持ち的にだ。
 ふだん彼とえっちにするときにゴムは使用しない。だけど、えっちする次の日が忙しかったり、気分が高揚してどうしようもなくなったときにゴムを使うのだ。コンラッドは自分のことを思ってそのようなときは、自分だけを愛撫してくれたり、挿入しても果てるときは自分の体調を気遣い内部で果てることはしない。
 それが有利は嫌だったり、物足りなかったりするのだ。やっぱり一緒に気持ちよくなって欲しいし、後始末は大変だが最後一緒に上り詰めて果てるときは中に彼の熱を感じたいと思う。そんなことを以前コンラッドに打ち明けたとき、彼はやさしく微笑むだけで「そのお気持ちだけうれしいです」と言うだけだった。コンラッドの言葉は嘘ではないと思う。けれど、自分的に納得いかずどうしたらいいのか行きついた答えはコンラッドにゴムを装着してもらうことだった。
 眞魔国には、避妊用の薬は存在するがコンドームのようなものはまだ開発されていない。また、コンラッドの心遣いに納得していないのは自分であって自身が購入するのが妥当だろう。
 そうしていまに至る。
 初めてゴムを手渡したときのコンラッドの顔を思い出すと、いまでも笑ってしまう。まさか自分がこんなものを購入してまでえっちをしたいと彼も思っていなかったのかめずらしくコンラッドのポーカーフェイスが崩れて呆けた顔をしていた。それと、あれ以来軍服の内ポケットにゴムが忍ばせているのを考えるとなんだかおかしくて笑える。
 買うときは本当に恥ずかしいが、こうして彼のことを考えると一時の羞恥など、どうでもいいことに思えるから不思議だ。
 相当自分は彼が好きなんだと思う。本人には口が裂けても言えないが。
 電車に振られながら、もうひとつの世界にいる彼のことを思い出し、間もなくしてホームに降りた有利が家に到着することはなかった。
 駅内のホームにある公衆トイレに寄り、コックをひねった途端、久々にトイレに引き込まれたのだ。



* * *



「……まさか、トイレからスタツアするなんて。せめてあとちょっと待って、手洗い場の蛇口の水からにしてほしかったな」
「それは災難でしたね。日本は衛生面が整っているからとはいえ、トイレの水からというのは抵抗ありますから」
「そうなんだよなあ」
 有利はコンラッドの自室の浴室を借り、いまは髪を彼に拭かれながら、愚痴をこぼした。今日はあまり運がついていない日なのかもしれない。中庭の噴水から帰還して、コンラッドがいつものように迎えに来てくれたかと思えば、一緒に迎えに来たふだんよりも眉間に皺が一本グウェンダルに強制的に執務室に連行されて夕食の時間まで書類整理をさせられたのだ。薬局でのこともあって精神的にダメージを食らっているのにこれは更なる追い打ちとしかいいようがない。とはいえ、王様という重職を請け負っているのだから文句など言えるわけもない。摂政を務めてくれるグウェンダルは毎日のように自分の仕事を肩代わりしてくれているのだから。
「今日はお疲れ様でした。いま、紅茶を淹れてきますね」
 あまりため息をつくと幸せが逃げてしまいますよ、とどこでそのような言葉を覚えたのかコンラッドは髪を拭き終わると有利に労いの言葉をかけて手早くお茶の支度を済ませる。
「はい、どうぞ」
「ん。ありがとう、コンラッド」
 ミルクティーのほのかな甘さがからだを癒すように染みわたる。こうして彼の淹れる紅茶を口にすると眞魔国へと帰ってきたのだと実感が湧く。
「すみません、急にお呼び出しして。今日中に目を通してほしい書類がいきなり多量に舞い込んできたものでしたから。疲れたでしょう。その代わり明日は一日オフですからゆっくり休んでください」
「よかった、明日も執務室に缶詰めだったらどうしようかと思った」
 早々と飲みほしたカップを渡しながら、有利は苦笑する。やらなければいけない仕事だとはいえ今日みたいにハードなスケジュールだったら、確実に明日は仕事中に脱走していたことだろう。
 座っていたソファーにごろりと横になってからだを伸ばす。今日はヴォルフラムが帰郷しているので、今夜はコンラッドの部屋に泊まることにしている。と、ソファーの下に置いてあったスポーツバックが目に入った。グウェンダルに連行されていてバックの存在をすっかり忘れていた。
「……あ、そういえば」
 そのままの体勢で、バックに手を伸ばしファスナーを開ける。今日はあれを買ったのだ。
「はい、コンラッド。……いつもの」
 ビニール袋をコンラッドに手渡せば、紙袋の中身を確認して小さく笑い、寝転ぶ有利の頬に触れるだけのキスをした。
「いつもの、ありがとうございます」
「ドウイタシマシテ」
 床に足を着いて耳元で注がれるコンラッドの声がついさっき飲んだミルクティーの甘さを彷彿させる。それから数時間前の恥ずかしさがよみがえり有利は頬が熱くなるのを感じた。
 買うのも慣れないが、コンラッドに渡すのも慣れない。平然とした顔で渡せるのはいつなのだろうか。
「俺のために買ってくださりありがとうございます」
 自分だけが知っている彼の低い声と甘い微笑みは羞恥をのりきったご褒美に感じる。高校生にもなって頭を撫でてもらう感触が心地いい。知らぬ間に雰囲気が徐々に甘く変化をしていくのがわかる。
「……ねえ、今日は夜ふかししませんか?」
 リップボイスを効かせた声が、おしゃべりなどの健全な行為を示していないのは思考が鈍いといわれる有利でも理解できた。背中が寒くもないのにざわざわと波を立てる。有利は顔をうつ伏せにして微かに頷く。
「ここでしますか。それとも、ベッドに行く?」
「……ベッド」
 彼と付き合ってもう何か月も立つのに慣れないものがたくさんある。いつか、これらも慣れることがあるといい。そうしたら、もっと自分にも彼に与えられるものがあると思うから。
 有利は、コンラッドに誘われるまま寝台へと移動した。部屋を照らしていた灯りが消えて、ベッドサイドに置かれる橙色を灯した小さなランプだけが互いを移す。何度もしている行為に胸が期待と面映さが混ざり合って心拍数を早くなる。
 ゆっくりとコンラッドの顔が近づいて、唇が触れあう。自分よりも低い熱を持った唇が啄むように動いて、お互いの温度を共有する。
 キスを繰り返しているうちに、有利のからだはこれまでの行為から学習をしていたのか自然とより深いキスをねだるよう小さく口を開いた。すると、コンラッドの舌が有利の下唇を舐め、口内へと潜り込み、歯列や頬の内側、上あごをなどを蹂躙して最後に舌を絡めて吸い上げる。甘い刺激がからだじゅうを巡る。
 気持ちがいい。
「……んっ」
 重なる口の隙間から声が漏れ、くちゅくちゅと淫猥な音が静かな部屋に響いて、まるで酔ったような感覚に襲われる。
 コンラッドの指が胸元へと降りて上着越しに突起を突き、有利のからだが魚のように跳ねた。
「もう勃ってる」
 嬉しそうに、それでいて意地悪な声で囁かれて有利は身をよじるも、力が抜けた状態ではあまり抵抗できない。彼の指先がいたずらに動いて有利を翻弄する。いつもは優しい彼がこういうときは少しだけサディスティックな一面を見せる。自分に被虐的思考を持ち合わせていないと思うが、彼のギャップを目のあたりにすると一層興奮してしまう。
 同性に対し性的な意味で興奮するなど、コンラッドと出会うまで考えたこともなかったのに。
 猛獣を連想させる鋭い視線と、薄く開いた口から見え隠れする長い舌と犬歯。時折、自分の痴態をみて楽しそうに喉奥で笑う。それらすべてが己の理性をぐずぐずに溶かして淫靡な世界へと引きづりこんでいく。
 彼と恋愛をしたら以前の思考には戻れない。まあ、このさき戻ることはないのだからどうでもいいことだ。
 互いの体温が上昇して汗が浮かび服が張りつく。その熱に堪えられなかったのはコンラッドだった。きちんと着込んでいる軍服の留め具を無造作に外してベッドのしたへと投げ捨てる。適当にボタンん外してシャツ一枚になった彼の胸元から素肌が見えて思わず目を逸らして有利は自分の失態に眉をひそめた。
「……もう何度も見たでしょう。見飽きるくらい俺の裸を。ねえ、ユーリ?」
 彼は自分の戸惑う仕草や嫌がる顔が好きだというのだ。悪趣味だ。
 コンラッドは有利の右手を取り、開いたシャツへと導く。ふだんよりも熱を持った肌。手のひらから早い鼓動が伝わる。それは有利の鼓動とさほど変わらないリズムを打っているというのに、まったく緊張している感じに見受けられない。
「ユーリはどうします? 自分で脱ぐかそれとも脱がせて欲しい? ……早くここの尖りをじかに触れてほしいでしょう?」
 突起を人差し指の腹で押しつぶしながら、コンラッドは尋ね、突如与えられた強い刺激に有利は高い声がこぼれ落ちた。
「ん、ァ……っ! 聞かなくてもわかる、だろっ」
「聞きたいんですよ、俺は」
 あなたの口から。と、コンラッドは、楽しげに笑い有利の答えを待つ。いつもなら、聞かずに気がついたら脱がされていることが多い。おそらく今日はコンラッドの機嫌がいつもよりいいからなのだろう。
 彼は機嫌がいいといやらしい言葉をやけに口にし、そればかりか卑猥な体勢を強制したりするのだ。例にもれず、この問いもどちらを口にしたところで自分にかせられる羞恥は変わりない。が、反抗心がもたげてくる。
 有利は、自らの上着に手をかけた。
「……じぶ、ん、で脱ぐ」
「そうですか。それでは、俺はこちらを脱ぐお手伝いをしましょう」
 そう言ってコンラッドは、有利の目尻に浮かぶ水滴を舐めとると顔を下降させ、秘部を撫でる。
「ああ、もうここも胸の尖りと一緒で勃起してますね」
「……ぁっ」
 服越しに撫でられているというのに、下着と陰茎がぬるついているのがわかった。下着が先走りでじわりと染みをひろげている。
 シャツのボタンを外すことなど、簡単なはずなのに手に力が入らずなかなか外すことができない。有利がやっとシャツのボタンをふたつ外したときにはすでにズボンのゴムに手をかけられ下着とともにベットのしたに落ちていた。
「ユーリはひとりでシャツのボタンも外せないのですか? それなら明日からは着替えをお手伝いしないといけませんね」
 半勃ちした陰茎に先走りをぬり広げるように上下にゆるゆると扱きながら、こちらに視線だけを向けて言う。うるさいと罵倒をしようと口を開けたが、それは嬌声と過剰に分泌される唾液が口の端こぼれただけで終わる。
 コンラッドが、陰茎を口にふくんだからだ。
「う、あ……っ!」
 生温かい口内に包まれて、からだが強張る。亀頭を舌が撫で、鈴口をひろげるように抉られて、有利は気がつくとシャツのボタンから手を外してシーツを掴んでいた。ここ最近、忙しく情事に耽ることもなくひとりで慰めることもしていなかったそこは与えられる愛撫に歓喜しているかのように執拗に快感を拾いあげていく。丁寧でそれでいて急速に、緩急に、彼の舌がべつの生きもののように巧みに愛撫をほどこす。
 同性とからだを重ねたことはなく、自分が初めてだというのは嘘ではないかと思うほど、コンラッドはポイントを攻めたてる。下半身がどろどろに溶けいく感覚に声は喘ぎにしかならない。
「喘いでばかりいないで、ちゃんと、上着、脱いでください」
「っ、わかって、る!」
 敬語で、ふだんと変わりない口調のはずなのに、命令調に聞こえるのはなぜだろう。
 そのようなことをいうのならもう少し愛撫の手を緩めてくれればいいのに。
「口のなかで射精してもかまいませんけど、服を脱ぐまえに果てようとしたら、噛んじゃいますよ?」
 陰茎のくびれに意味ありげにコンラッドは歯を立てた。
 恐怖なのか快感によってなのか自分でもわからない。いや、両方なのだろう。背中に冷える感覚が走る。どこを噛むとは言っていないが、おそらく彼はためらいもなく、子供のような無邪気な気持ちでいま咥えている部分を噛む。せめて、甘噛みであることを祈りたい。
 有利は握りしめていたシーツから再び手をボタンへと移動させる。
 噛まれるまえに、祈るまえに、射精するまえに、ボタンをさっさと外して、上着を脱げばいいだけのはなしだ。
 力の入らない指を叱咤して、快感を殺すように口を噛む。
 窮地という単語を使用するほどでもないが人間切羽つまると結構なんでもできる。さきほどまで手が震え外れなかったボタンもひとつ、ふたつ、となんなく外し終えて、シャツを床へと投げ捨てた。
「これでいいだろ……っ」
 合意のうえでの行為だったはずなのに自分の陰茎を嬲る男の変態的行動によって自分は反抗的な返答ばかりしてしまう。もっと普通のモチベーションでお互いえっちができないのか。
「……久しぶりにあなたを抱くことができると思うと、感情が制御できなくて困ってしまいますね」
 考えを読み取ったようにタイミングよくコンラッドは口を開き、陰茎から顔を離した。彼の愛撫によって完全に勃起したそれは、反り返り絶頂をねだるように鈴口から先走りを流す。
「ちゃんと、ひとりで脱げたからイかせてあげますよ」
 鈴口を指の腹で撫で、コンラッドは自らのスラックスを前立て寛げると陰茎を取り出した。
「でも、一緒に、ね?」
 言って、コンラッドは互いの陰茎を片手でまとめ扱きはじめた。フェラチオとも手淫とも違う感触にまた新たな快感が有利を襲う。
 長さも嵩も異なるコンラッドの陰茎。彼の亀頭が自分の竿の部分を舌で愛撫したときのように下から上へ擦り、くびれの部分をひっかけるようにされるとたまらない。せわしなく嬌声がこぼれ落ちる。
「は、ぁ……ぁっ」
「こちらもさっき約束してましたよね」
 妖艶に目元を細くして、コンラッドはちらり、といたずらに舌を見せたかと思えば、有利の胸元に顔を寄せた。その行為がなにを意図するものなのかわかり、有利はコンラッドの肩を押したが、一歩遅かった。
「や、め……ぁあっ!」
 胸の尖りを舌で押しつぶされる。下肢と胸に与えられる快感が有利の自制心を破壊させる。どちらとも判断のつかない先走りで滑り、粘ついた水音が耳を犯し、舌だけではなくときには、突起をかすめるように歯を立てられて、瞬きをすれば涙が頬を流れ、シーツに沁み込んでいく。
 有利は絶頂をねだるように、男の名を呼ぶ。
「乳首とペニスどっちのほうが気持ちいい?」
 すると、彼はわかっているはずなのにはぐらかす。あまりにもわざとらしいもの言いに思わず有利はコンラッドをねめつけるが、彼は楽しそうに笑みを深くするだけで、それ以上を口にしようとはしない。だが言葉の裏に「言わなければ、イかせませんよ」と言っているような気がした。
 本当に、上機嫌になったこの男は底意地が悪い。
 有利は、小さく舌打ちをしたあと問いに答えた。
「……っ、りょう、ほうだ、よ! バカ! だから、もう、いいだ、ろ……っ」
「両方、気持ちがいいんですか?」と、再度尋ねる男に首を縦に振る。
「ユーリは淫乱ですね」
「はあ? ふざけ……っ、んぅ……」
 罵倒はコンラッドの唇に塞がれ口内へ消え、陰茎を擦りあげる手が早まる。
「俺好みのからだに嬉しいって褒めてるんですよ。……そろそろ、俺もあなたと一緒に一度、イっておきたいな」
 言うと、舌がまた絡んであとは卑猥な水音と荒い息づかい、そして自分の喘ぎ声だけが部屋に響く。そしてそう時間もかかることもなく陰茎の裏筋を彼のもので強く擦られ、ほぼ同時に熱を吐き出した。
 心臓が、うるさい。
 そうだ。この男のせいだ。こんなからだになってしまったのは。
 一度、欲望を吐き出したというのに、陰茎は萎えることなく再び硬度を得ようとしている。
 自分のも。彼のも。
「まだ、飛ばないでくださいね?」
 コンラッドは見せつけるように、手のひらについた白濁を舌で舐めとりながら笑んだ。


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