■ 4

 熱いコンラッドの屹立がうっすらと寄った谷間でぬるぬると擦れていく。彼のことを変態と罵っていたけど、目の前で繰り広げられる光景におれもまた興奮してしまう。
 やるからには気持ちよくなってほしくておれはうつむくと、舌を出して上下に動く亀頭を舐める。すると心なしかする男のモノが大きくなり、先走りの特有のどことなくしょっぱい味が舌先から伝わってきた。
 いま、コンラッドはどんな顔をしてるんだろ。
 気になって、そろりと気づかれないよう顔を動かさずに目線だけをコンラッドに向けるとうっすら頬が上気して、いかにも男という色気が醸し出されていてどくん、と心臓が高くはねた。
「――そんないやらしい目で俺をみないでくださいよ。誤って射精するかと思いました」
 冗談混じりに言い、コンラッドが恍惚した表情のままおれを見つめ返す。同時に、盗み見をしてバレてしまったのが恥ずかしくなっておれはすぐさま目をそらす。それがまた普段は猫かぶりをしている彼の嗜虐心を刺激したようで、舌先にあたるだけだった亀頭がわずかに開いていたおれのくちから侵入してきた。
「……んんっ!」
 奥まで屹立が入ってきたわけじゃないから、えづくことはなかったけど、それでも突然のことにからだがびくん、と跳ね上がる。
 おい。さっきフェラチオはつぎの機会とか言ってなかったか? あんた。おもいっきりさせてんじゃねーか!
 口内にコンラッドのものがあって文句が口に出せないのが恨めしい。いっそ、彼のものに歯をたててやろうかと再び視線をコンラッドあわせて睨んだが、おれの考えなど男には言わずとも伝わったらしい。
「歯をたてたら、今日は眠られないと思ってくださいね」と釘を刺されてしまった。
 山のように重ねられた執務室の書類の束も明日がんばれば区切りがつき、もしかしたらグウェンダルから休暇をもらえるかもしれないのに明日ヤリすぎて動けなくなりました……なんてことになれば、休暇どころか三時間は説教をくらいそうだ。
 貴重な休暇をこんなことでおじゃんにするのは御免こうむりたい。
 くびれに歯を立てようとしたそれをひっこめれば「いい子ですね」なんて子どもを相手にするような口調でコンラッドが頭を撫でた。
「でも俺はとても気持ちがいいですけど、これではあまりユーリは気持ちよくないのかもしれまんせんね。興奮はしてくださってるみたいですが」
 たしかにコンラッドの言うとおりだけど、いつも気持ちよくしてもらってばっかりだからこのままイってもらってもおれとしてはべつにいいんだけどな。
 おれは「それは気にしなくていい」という思いをこめて無理やり口内に突きいれられたものを愛撫する。が、セックスの際中はいつもコンラッドが主導権を握っている。口淫をさせたのは彼なのに、何度か頭部を上下させているうち口のなかからそれを抜く。
「え、と……気持ちよくなかった?」
 その意図が読みとれなくてもしかしたら数えるくらいにしか口でしたことがないから気持ちよくなかったのかもしれない。
 問えば「いいえ」とコンラッドは答える。
「とても気持ちよかったですよ。俺のをくわえるやらしいユーリもみれて満足でした。でも、やはり一緒に気持ちよくなりたいからね」と、コンラッドはおれの手を引き、再度おれをベッドに仰向けに沈める。……シックスナインの体勢で。
「……この体勢でまたあんたの舐めろって?」
「それでもいいですが、口が疲れるでしょうからもう大丈夫です。俺があなたを気持ちよくさせたいので。ユーリはおれにもっと恥ずかしい姿を俺にさらしてください」
 この体勢でもう充分恥ずかしいつーの。と、思うがだんだんと理性が薄れているからか、悪態が口に出ることはなかった。それよりも体中にくすぶる熱をどうにかしたい。
「もうすこし、上半身を低くして」
 言われたとおりに上半身を低くすると、おれの乳首にコンラッドの屹立がこつん、とぶつかっていままで味わったことのない快感がおれを刺激した。
「ユーリは乳首もいじられるのもお好きでしょう。ペニスは俺の口と手でかわいがってあげる。胸はユーリが好きなように動いて」
「……っんなの、できな」
「できますよ。俺があなたのからだに快楽を教えこんだんですから――ほら、やらしく動いて俺にしか見せないあなたをみせて」
 乳首を押しつぶすようにコンラッドが陰茎を擦りつけてくる。擦れて敏感になっている乳首は押しつぶされるたびにむず痒いような快感を生み出して――おれは理性を手放した。
「ぁう……っ」
 もっと気持ちよくなりたくておれはからだを揺り動かす。すると、コンラッドが「よく出来ました」と言わんばかりにおれの屹立に手を添え、ときには舐めてくるからバカみたいに感じてしまう。
 コンラッドが「この格好ですると、ユーリの顔がみえなくて残念だな」とかなんとか言ってるけど、もうそんな冗談にかまってる余裕なんてない。一度愛撫が止まったからだはいままでの甘さを欲するのに必死になっている。
 からだを繋げるたび、軽口も量も増えたがそれに比例してコンラッドに与えられた快楽に貪欲になってしまったようだ。
 喘ぎを殺すこともなく、たえず嬌声をこぼす口は唾液で溢れしたで寝そべる男のからだを汚す。汚すことに罪悪感を感じなくなったこともこうして醜態をさらしてしまうのもコンラッドが言うように、おれの肉体、そして精神も彼によって調教されてしまったからだ。
 時折思う。いつまでおれはコンラッドと一緒にいれるのだろうと。願うことならずっと一緒にいたいと思うが、それでも未来のことなどだれにもわからない。互いの恋愛感情がすれ違っていくかもしれないし、この世界の情景が自分たちの行く末を左右する……ということだってありえる。
 こんなこと考えたところ無駄だということはわかっている。が、それらをコントロールする理性がない状態だとうまく考えを払拭することができない。
 快感にのまれぼぅっとする頭のすみはいつも温度差があり、冷めている。頭が空っぽになるほど、快楽してしまえば楽になれるのに、それができないのはきっと口が裂けてもいえないが、コンラッドのことが好きで好きでたまらないからだろう。
 だれかを好きになるのは、趣味などの好きとはちがうものだと、コンラッドとつき合うようになってから知った。
 野球をするのが好きだけど、夢中になったとしてもそのさきに恐怖を覚えることなんてなかったから。いつまでも好きでいて当たり前だとすら思っている。だけど、恋愛はちがう。夢中になればなるほど、怖くなっていく。コンラッドの存在が怖い。
 自分の性格上、どうしても頭で考えるよりもさきに口に出てしまう。コンラッドはおれの性格をわかっているからエッチの最中に恥ずかしくて何度も悪態をついても許してくれるけど、それだっていい思いはしないだろうとおれだってわかっている。
「どうかしました?」
 突然、からだを起こして対面座りするおれにコンラッドが声をかけてきた。
「やっぱり、やりすぎましたか」とコンラッドが尋ねる。
 なんだよ。やりすぎだという自覚はもっていたのかとも思ったがおれはコンラッドの問いに首を振り、小さく思いを発する。
「――すき。あんたが好き」
 どんなに変態で傲慢でもおれはコンラッドのことが好きなのだ。
「ユーリ……?」
 初恋は実らないっていうけど、実ったこの初恋をいつか終わりになんてしたくない。
 考え出したら怖くてしかたがなくて、本能が優っているいまなら言えるような気がしておれは想いを吐露する。
「……あんたがしてほしいことは、どんなことだってはずかしくてもするから……おれのこときらいにならないで」
 脈絡もないおれの発言にコンラッドは虚をつかれた顔をみせたが、それはすぐに苦々しいものへと変貌し、後頭部に手をまわされたかと思えば乱暴な口付けがおれを襲った。息さえままならない。
「――あなたってひとは俺をどうしたいんですか。嫌いになるなんてありえないのに」
 ようやく口唇がはなれたかと思えば叱咤にも思える口調でコンラッドが口をひらく。
「愛してます。この世界がどうなろうと、あなたがこのさきほかの誰かを好きになろうと俺の気持ちは絶対に変わらない」
 鼻先が触れる距離でコンラッドが真剣に言う。
「言っておきますが、ユーリが誰を好きなったところで俺は引きさがることなんてしませんからね。そうならないよう、心もからだも俺を刻みつけてあげる」
 俺に欲を教えてくれたのはユーリなんだから。と、コンラッドは言い、綻んでいる菊花に指をおし入れ具合をたしかめると対面座位の格好でさせられて挿入を合図するように額にキスをされた。
 そうしてゆっくりと動きだし、徐々に打ちつけられる腰の動きがはやいものになっていく。
「ぁ、ん、んっそこ……やめ、」
 内壁にあるしこりを亀頭でつぶされて背中が反る。しかもそうしてのけ反ったことでコンラッドに胸をさらすような体勢になってしまい、案の定また突起を舌でねぶられる。
「――まったく、こんなかわいくなっちゃって……どこで覚えたんだか」
 対面ひとりごとのようにコンラッドが呟く。
「あんたがおれをこんな風に、したんだ……っ! コンラッドのせいなんだからなっ」
「わかっていますよ。すべて俺のせいです。でもね、俺もまたユーリに変えられているんです。心配しなくても大丈夫です。こうやってどんどんお互いのからだを作りかえていけば、ほかのひとになんて恋もできないし、別れる必要もない。……もっと依存しあいましょう」
 鎖のように重たいことばを軽く口にしてしまうから、コンラッドには敵わない。おれはコンラッドの首に腕を巻きつけて耳元でコンラッドを責めた。
「あんただから、コンラッドだから……おれ、なんでも許してるんだぞ」
「だからそうやって俺を煽らないでください。寝かせてあげられなくなってしまう」
 いまのはあなたが悪い。とコンラッドは舌うちをしながら言うその舌うちがおれがするのより格好良い。そう思うのは、惚れた欲目なのか普段の彼からは想像つかないからなのかわからないけど、おれの肢体は反応してしまって接合部を締めつけてしまう。
「こ、んらっど、」
 肥大した昂りに翻弄されて舌足らずになりながらもおれは抱きしめている男の名を呼ぶ。
「も……っと、ぉく」
「奥? ここですか」
 熱に浮かされ、本能のままにねだればおれ以上におれのからだのことを知っているコンラッドがすぐに欲しい快感を与えてくれた。
「気持ちいい?」
「……っん、きもちい、ょ」
 荒い息を吐きながら頷けば、突起を舐めていた彼の舌が鎖骨へとのぼりそこを噛じる。甘噛みというより食べるに近い痛みだが、いまのおれにはその痛みすら、快感へと変化してまた小さく喘ぎを漏らした。
 たぶん、歯形が残るだろう。
「ユーリは、反則ですよね。悪態をついてばかりだと思えばこうしていきなり素直になったりして――俺は翻弄されるばかりだ」
 夏でも厚地の軍服を着込んでいても汗をかかない彼なのに、いまはどちらの汗なのかわからないほどふれ合う肌がぬめりを帯びている。
 どうでもいい些細なことだけど、たぶんこれもおれしか知らないコンラッドの顔のひとつだと思うと理性がとんだおれにはかわいくてしかたがない。
 おれはコンラッドの頬に両手を添えて、彼の顔をこちらへと向かせた。その瞳には銀の星が散っている。この星散るきれいな目もおれだけのものだ。顔を近づけ口唇がふれ合うだけのキスをすると、それだけではたりないと言うように今度はコンラッドが淫猥なキスを仕掛けてくる。
 もうキスからか繋がっている場所からかわからないほどの水音が絶え間なく鼓膜を刺激しながら高みへとのぼりつめていく。
「……ッド、も、むり……っ」
苦しいほどの快感から逃げたくておれはよりコンラッドの首にしがみついた。
「あとちょっとだけ我慢して。あなたと一緒にイきたいから」
 コンラッドは言うとおれの腰に腕をまわしてからだを支え、もう一方の手でいまにもはじけてしまいそうな屹立を指で戒める。
「ひ、ァっ……」
 ぐずぐずとからだの芯から溶けてしまいそうな甘さに耐えきれずコンラッドの背中に爪を立てた。痛いかもとは思ったけど、彼の心配をしている余裕はもうおれには残っていない。
 そうして、コンラッドが喉奥で息を詰めたかと思えば屹立から指が外れ強く扱かれてほぼ同時に吐精する。
「はっ、は……っ」
 バグバグと心臓が鼓動する。ぴったりとコンラッドとくっついている胸から彼の鼓動もおれと同じくらい激しい。
 何度もコンラッドとエッチしちゃってるけど、はずかしい。だけど、こうしているとしあわせでちょっと甘えるように彼の首に顔を擦り寄せたら突然「すみません」とコンラッドが謝った。
「? なにが」
 尋ねると返事の変わりにコンラッドが顔をあげ困ったように笑みをみせる。その笑みにまさか、と声をあげるよりさきにまだ内壁にあるコンラッドのものが硬度をとりもどしてくすぶるように腰を揺らめかせた。
「もう一回、しましょう」
「は? え、ちょっと待って、待て! 明日起きられなくなったら困るからこれ以上はム――ん……っ」
 おれの制止も聞かずに口をふさがれる。
 もうだいぶ理性も戻ってきて『変態的なエッチしちゃったけどまあ、今回のところは水に流そう』と思った矢先にこれだ。
 まじ調子のんなよ、エロ獅子が!

* * *

「――小僧。今日はえらく静かだが、体調でも悪いのか?」
 黙々と執務をこなしているおれをみて不思議そうにグウェンダルが声をかける」
「え? あー……そうかも。でも、心配しなくていいから」
 腰はズキズキ痛むし、散々弄ばれた乳首は未だにうっすら腫れてるし、寝不足だし。グウェンダルが指摘したように体調はあまりいいとは言えないけど、それ以上にイライラのほうが大きい。
「ということは、コンラートとケンカでもしたんだろう、ユーリ。僕を執務の護衛につけるなんて珍しいと思ったんだ」
 おれの席のうしろでヴォルフラムが言い、おれは「まあ、そんなとこ」と答えた。口が裂けても昨日ことを言えるわけがない。
「あ、そうそう。だから今日はコンラッドと別行動したいから、休憩も鉢合わせのないようにお願いね。そのためならおれ頑張ってお仕事しちゃうから」
 ケンカの仲直りと脱走癖のある王がさぼらずに執務。グウェンダルの脳内ではおそらく天秤にこのふたつが乗っているだろうけど、もうおれには答えはわかっている。
「……わかった。お前の言うように調整したやろう」
 今日の執務を終わって休暇をとれたら速効、地球にスタツアしてやる。
 これぐらいの仕返しというかお灸を据えたって罰はあたらないはずだ。
「やった!」
 両手をあげて喜びのポーズを見せ、昨日のこと反省し心のなかでおれは誓う。
 そのいち、コンラッドのことは甘やかさない。
 そのに、乳首に絆創膏を貼るなんてバカげたことを二度としない。
 そのさん、なにより体調管理には十分気をつける。と、言うことを。

二度と乳首に絆創膏など貼るもんか!

END

ちょっと消化不良な感じでしたが楽しかったです。

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