■ 3

 今日はとことん、乳首を攻め立てることにしたらしい。
慣れた手つきでベッドチェストの引き出しにはいっているローションを取り出し手のひらにローションを垂らすと彼の手が双丘をすべり奥にひそむ菊花周辺を撫でた。
「……っん」
 もう片方の手は相変わらず突起を愛撫している。
 こぼれ落ちそうになった嬌声をかみ殺そうとして荒い息が耐えない口を無理に閉じれば、声は鼻を抜けより甘いものになって外へと吐き出されてしまう。
「気持ちいいですか?」
 本来であれば、情事に身を投じるつもりはなく、おれが乳首に絆創膏を貼っていたことで勝手に興奮している変態な男の手管に翻弄されてしまいこんなことになってしまっているのだ。おれとして不本意であり、不満ある状況下でいま以上にコンラッドを喜ばせようという気持ちは微塵もない。
「教えてくれないんですね。つれないな」
 尋ねたのに答えが返ってこないのが、彼は不満だったようだ。
「ぁあっ!」
 普段なら菊花を充分にならしてから指を挿入してくれるのに容赦なく一本の指を内壁に突きいれられておれは上半身をそらした。
 ほんとうにこの男はばかだ!
「痛くはないでしょう?」
「そりゃそうだけどっ!」
 たしかにコンラッドの言うとおりローションのおかげで擦り切れるような痛みはなかったけど、心の準備もしていなければ圧迫感もとり払われたわけでもない。
「でも、なんか……ヘンな感じがする」
 違和感を訴えれば、コンラッドがおれの耳壁に顔を寄せ「いつもより俺の指がリアルに感じとっているからですかね」と意地の悪い腰に響く低い声音で囁いた。
「っばかなこと、いってんじゃねえよ……っ」
「ほんとうのことを言っているだけです。あなたもわかるでしょう? 内壁が俺の指を締めつけているのが」
 言って、羞恥心を煽るような男のセリフに罵倒を浴びせようと口を開くも耳に寄せられていたコンラッドが耳を輪郭を舐めさらには耳のあなに舌を差し込んできて罵倒は喘ぎへと変化する。
 くちゅくちゅとダイレクトに鼓膜を響く水音が淫猥で頭のなかまで犯されているような錯覚に陥る。頃合いを見計らってさし抜きをする指の本数が二本、三本と増え、おれはたまらずシーツを握りしめた。そんなおれをコンラッドは至近距離で観察し「やっぱりいいですね」とわけのわからない呟きをこぼす。
「なにが?」と尋ねればコンラッドは、はなすをそらすことなく「ユーリのエロ顔がです」とにこりと微笑む。
「普段のあなたからは、性のニオイなどまったく感じられない。健全で明るく、セックスを知っているのかさえ疑ってしまいたくなるのに、いまのユーリは妖艶でとてもやらしい。……俺だけがあなたにこんな顔させることができるのだと思うとたまらないな」
 頬を緩めて述べるあんたこそ、普段じゃ考えられないよ。
「何度でも言うけど、ほんとうにあんたヘンタイだな」
 いろんなひとからコンラッドのことを聞いている。なににたいしても淡白だとか、興味がないとか。コンラッド、という男は執着心が欠けていると皆、口をそろえて言うのだ。
 だからだろうか。変態でおっさんで呆れてしまうものの、彼が憎めないのは。
 どんなことにも、興味がなかったコンラッドがおれにはそれをさらけ出してくれるから彼をゆるしてしまい、こどものような邪気のない笑みに咎めるタイミングを逃し、かわりに綻んでしまいそうになった顔をどうにか引き締める。
 と、ようやく菊花に埋められていた指と乳首をいじっていた手が離れた。
「ユーリ、からだを起こしてもらえる?」
「ん、」
 ベッドの背もたれに背をあて座るよう促されておれは素直にそれに従う。そのままコンラッドの屹立を受け入れるのかと思っていたけどおれとの距離を縮めたコンラッドは膝立ちをした。
 おれの目の前には、反り返った男の陰茎。
「……なに、舐めろってこと?」
 いつもだったら、おれがやろうとしても頑として拒否をするのに。
 べつに積極的コンラッドのものを咥えたいとは思っていない。だけど、自分だけが気持ちよくなることも翻弄されるのもいやなのだ。
 ためらいがちにおれは彼の屹立に手を伸ばしてみたが、コンラッドの手のひらで額をおされ顔を近づけた顔を離される。
 ……ってあれ?
 おれはこの瞬間、まえにもこのようなことがあったように思えて首を傾げた。
「口でご奉仕もたいへん魅力的ですが、口はつぎの機会に。今日はこちらでお願いしますね」
 この発言もそうだ。
 すごーくいやなことをされた気はする。ゆっくりと沈殿した記憶を掻きだして――ようやく、それが以前、言いつけを破りお仕置きとして髪コキされたときだと思いだしたが、時すでに遅し、だ。
 コンラッドがわずかに目をかがめて『こちら』と指した場所にその屹立をあてておれは絶句する。
「あ、あんたばかじゃないのか……っ!?」
「地球ではパイズリと言うんでしたっけ。どの世界で生きていてもやはり男のロマンというのはかわらないんですね」
 そう。コンラッドが陰茎を押しつけたさきはおれの胸だ。こいつほんとうになに考えてるんだろ。
「いつかはしてみたいな、と常々思っていたんです。思うだけだったのですがそんな愛らしく腫れた乳首みたらがまんできなくなってしまいました」
「ふざけなよ!」
「ふざけてませんよ。本気です」
「なおわるいっつーの! 爽やか好青年と呼ばれるあんたがぱ、パイズリにロマンを感じてるなんて知れたらあんたのファンが阿鼻叫喚するぞ!」
 いやファンだけじゃなく、緊急十貴族会議でも起こりそうだ。っていうか、パイズリなんて冗談じゃない。どうにかしてコンラッドの変態的欲望をこの胸のあいだからどかしたい。
「コンラッドだってもう何十年いや何百年培ってきた世間体をこんなバカなことで失いたくはないだろう?」
 諭すように言うもまったく彼の心には響かないようでおれの許可なく、ぐりぐりと屹立を肌に押しつけてくる。
「世間体がどうこうより、俺はバレるようなヘマはしませんし、あなただってパイズリされましたって言いふらすことはできないでしょう」
「それは……そうだけど」
 でもああいえばこういう男の正論にやや声が弱くなるがパイズリをしていい理由にはならないだろと返すも、おれが欲望にまみれたいまの彼に勝てる要素など、どこにもなかった。
「それに、まえにユーリは俺に仰ってくれましたよね。『おれに叶えられることならなんだって叶えてやる』って。あれはウソだったんですか」
「うっ……」
 言った。しかも何十回と言っている気がする。あれはウソじゃないけど……。
「ここでそれを言うのは卑怯だろ!」
「卑怯でも変態でもどうとでも俺を責めてください。俺だってこんなことを想い、言うことになるなんていままでなかったから驚いているんです。俺変態にしたのはあなたですよ。……さ、ユーリ。俺のペニスをあなたの胸で慰めてください。俺の夢を叶えてください」
「ほんと、おまえ意地がわるい……っ」
 いままで恋人ができなかったおれ。それでもいつかは恋人が運命の相手と出会えると思っていた。運命の相手が男で百歳越えってだけでも想定外なことだったのにまさか……まさかこのおれがパイズリをするハメになろうとは。
 でも『なんだって叶えてやる』と言ってしまった手前『これだけは無理です』なんて性格上言えるはずもなく、意を決してつるっつるな胸を両手で寄せわずかに谷間をつくる。
「こ、これでいい……の?」
 羞恥で自分の声にも関わらず聞こえないほどものになってしまったが、コンラッドという変態男は地獄耳を持っているのかぶん殴りたくなるくらい、いい笑顔を浮かべて「ええ」と頷いた。
「最高です」
「……」
 いつかこいつにもパイズリさせてやる!
「あ……それはちょっといやかも」
「なんのはなしですか?」
「いや、なんでもないデス」


[ prev / next ]
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -